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——肝試しが行われた晩、自室で受験勉強をしていたカイリは、外が騒がしいことに気がついた。
「大変だ!新作中の生徒たちが集団で倒れている!」
「人手が要る、みんな凪の森に来てくれーっ!」
只事ではない様子に、カイリが作業の手を止めて窓を開けると、島の大人たちが一方向へ走っていく姿が見えた。
そして間も無く社宅のインターホンが鳴り、カイリの両親が島の人達と何か話す声が朧げに聞こえて来た。
「——何かあったの?」
「あ……」
母親が口を開こうとするのと同時に、父親が
「みんなを手伝って来る」
と言って玄関から出て行った。
「人手が要るなら、僕も手伝うよ——」
「ダメ!!」
カイリが父親の後を追おうとした時、母親が力強くカイリの腕を掴んだ。
「カイリの学校の人達が、凪の森で祟りをもらって倒れてしまったんですって」
「え!?」
まさか。
祟りって——まさかナギが現れた?
島の噂は本当だったということ?
「カイリまで凪の森に行って祟りを移されたら大変よ!
だからあなたは私と家の中に居てちょうだい」
「っ……僕の友達も今日、その凪の森に行ってるはずなんだ。
助けてあげたい——」
「助けに行ったところで、祟りが相手じゃどうにもならない!
あなたにできることは何もないのよ!」
そう母親に止められ、カイリは戸惑いながらも
とにかくミナトが無事でいてくれることを祈った。
しかし、倒れた生徒たちを学校の体育館まで運び終えて戻って来た父親から、衝撃の言葉を聞かされることとなる。
「どの生徒も熱と身体中の痛みに苛まれ、見ていて酷く痛々しかったよ。
でも、一人を除いてみんな意識はあるようで、会話もきちんとできていた。
島の病院は病床が少ないから、意識のある生徒以外は体育館で大人たちが看病しているけれども、原因が祟りだなんて言われると手の施しようがなくてね……これからどうすればいいものか」
「っ、意識がない人がいるの?それも一人だけって……。
——ねえ、その人の名前は聞いた?」
「ええと——坂井湊くん、だったかな。
彼だけが意識を失くして病院に搬送されたらしい」
「……ミナト……!」
カイリはそれを聞くと玄関を飛び出し、自転車に飛び乗った。
両親の制止を振り切り、一目散に病院へ向かうと、看護師に頼み込んでミナトの病室に入らせてもらった。
ミナトは瞼を閉じたまま、酷くうなされている様子だった。
そっと額に触れてみると、火にくべたヤカンのような高熱を発していた。
「ミナト……!!」
どうしてミナトがこんな……。
いやだ。
死んじゃ嫌だよミナト。
——カイリは、その夜ミナトの病室で一晩を明かした。
朝になってもミナトは目を覚まさず、回診にきた医者から
「一度家に帰って休んではどうだ」「意識が戻ったら君にも連絡する」と言われたカイリは、名残惜しく思いつつも社宅に戻った。
他のクラスメイトたちの様子も気になったが、勝手に家を飛び出して行ったことを咎められたカイリは
今日は一日家に籠っているようにと両親に言いつけられた。
両親は、カイリがクラスメイトと接触して祟りを移されることを懸念しているようだった。
カイリの家族は、島の外から移住して一年のため
凪の森のこともナギのことも詳しくは知らない。
ただ伝説上は祟りに触れると命を取られると言われており、
移住した直後に凪の森には近づかないよう島民から言われた程度だった。
祟りが伝染するなんてことは信じていない。
現にミナトに接触した後でも、僕の体調には何も異変は起きていない。
だけど、祟りそのものは本当にあるのだろう。
ミナトが苦しんでいたのは事実だ。
……ミナトのために、僕がしてあげられることはないだろうか——
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