25歳

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ミナトたちが倒れてから三日目を迎えた。 まだ病院から、ミナトの意識が戻ったという知らせを受けていないカイリは 両親に「友達の見舞いに行きたい」と告げ、どうにか許可を貰って再び病院へ向かった。 ——その道中、島民の集団がこちらの方へ歩いて来るのが見えた。 「……君」 「はい?」 自転車ですれ違おうとすると、島民の一人がカイリに声をかけて来た。 「工藤浬君って、君のことかな?」 「はい、そうですけど……?」 カイリが答えた瞬間、島民たちは一斉にカイリを取り囲んだ。 「な、何ですか……?」 「——君が生贄に決まったんだよ」 「え?生贄……?何のこと——」 「すまんが大人しくしてくれ」 「!?」 大人たちはカイリを自転車から引き摺り下ろすと、両手の自由を塞ぎ身動きを取らないように拘束した。 突然の出来事に戸惑い、思わず大声で助けを呼ぶと、社宅の方から声を聞いた両親が飛び出して来た。 「息子に何をするんですか!?」 「カイリを離してください!」 カイリを助けようとする両親を、大勢の島民が立ちはだかり、それを阻止した。 「工藤さん。息子さんはナギへの生贄に捧げられることが決まりました」 「いけ、にえ……?」 呆然とする両親と、まだ混乱しているカイリに、島民が告げた。 「ナギの祟りは、かつて生贄を捧げたところ鎮まったという伝説が残っています。 ——今回、新作中学校の三年生が一斉に祟りを受けました。 子ども達を体育館に運んだお父さんも、その様子は目にしたでしょう」 「……見ましたけれども」 「この祟りを鎮めるために、三年生の中から一人、生贄になる生徒を選ぶことになりましてね。 三年生の中で話し合うよう校長から告げたところ、あなたの息子さんを生贄にすることでクラスの意見が一致したんですよ」 「!?」 カイリ、そしてカイリの両親は息を呑んだ。 「な……なぜうちの息子が!?」 「そうよ!それに、クラスのお子さん達は立ち入り禁止の森に入って肝試しをした挙句に祟りをもらったと言うのでしょう? どうして肝試しに参加しなかったうちの子が生贄にならなきゃいけないんです!?」 カイリの父親と母親は抗議したが、島民はこう返した。 「残念ですが、みんなで話し合って決めたことです」 「みんなって!?うちの子がいない場で勝手に話し合って、責任をなすり付けて、後から決定したことだと言われても到底納得できません!」 「工藤さん。本土から越してきた工藤さん一家にはピンと来ないことかもしれませんがね。 この島では、『ひとりはみんなのために』という言葉をモットーにしているんですよ。 島民同士は支え合い、助け合うのが当然の習わし。 一人の犠牲で大勢が助かるのなら、喜んでそれに貢献をすべきなんです」 「『ひとりはみんなのために』がモットーなら、どうして『みんなはひとりのために』という言葉もモットーにしないんです!?」 両親はどうにかカイリを取り返そうとしたが、多勢に無勢、カイリは両親の目の前で後ろ手に縄で縛られ、口に猿轡を嵌め込まれた。 「なんてひどいことを!」 「カイリを返して!」 両親の叫びと懇願も虚しく、カイリは大勢の島民に抱えられ、凪の森へと運ばれて行った—— 森の奥の社に着くと、カイリは祭壇の上にどさりと落とされた。 生贄って…… これから何が始まるんだ? カイリが心臓をバクバク鳴らしていると、やがて集団の中に神社の神主が合流した。 そして何か分からない祝詞を唱えると、最後に天に向かってこう言った。 「この少年の命を持って、島の祟りを鎮めたまえ!」 ——それから、神主と島民たちは森を去って行った。 どうやら彼らがとどめを刺すわけではないらしい。 誰か一人が少年殺しの罪を背負うことを避けたかったのだろうか。 カイリが餓死するのを待つのか、ナギが取り殺すのを待つのか、真意はわからないが 両手を拘束され、猿轡を嵌められたカイリが自力で森を抜け出すのは土台不可能なことであった。 きっと両親も、カイリが死ぬまで拘束か監禁をされていることだろう。 中学生の自分にこんな非道な真似ができる島民たちなのだから、それくらいのことはしているだろうとカイリは思った。 ……どうしてこんなことになってしまった? クラスのみんなが僕を生贄に指名した? 確かに、僕はクラスの中では浮いた存在だ。 いつの間にかクラスの人たちに避けられるようになっていたし、 よく知らない上級生から因縁をつけられて根性焼きをされたこともあった。 島の外から来た僕のことを、みんな歓迎してないんだろうなって思ってた。 だからこの島で家族以外に唯一心を許せる相手はミナト一人だった。 ——そうだ、ミナト。
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