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ミナトはまだ意識を取り戻してないんだよな、きっと……。
とても不安だし、助かって欲しいと本気で思う。
だけどミナトが意識を失くしてくれて良かったとも思う。
もし、僕を生贄にすることを決めたクラス会議の中にミナトがいたなら——
ミナトもクラスメイトたちの意見に賛同していたなら——
僕はもう誰のことも信用できなくなるところだった。
ミナトのことを恨んでしまったかもしれない。
そうならなかったことだけは、僕にとっての救いだ。
夜の森は、真夏にも関わらず冷え切っていた。
ひんやりとした風が吹き抜け、祭壇の石畳を冷やしていく。
すっかり日が落ち、月明かりだけになった祭壇の上で、カイリはほろりと涙を落とした。
ミナト……
僕、もっとミナトの絵が描きたかった。
ミナトの話をもっと聞きたかったし、僕の話を聞いてもらいたかった。
ミナトが僕のこと、友達の一人としてしか見ていないのは分かってる。
ミナトには僕以外にも、いや僕よりも親しい友達が沢山いるし、何より——ナナミのことを慕っているのも知ってる。
僕とミナトがどうにかなるなんて思ったことはなかったよ。
だけどあの日、ミナトが僕のお願いを受け入れてくれて嬉しかった。
僕とキスしてくれて、僕を抱きしめてくれたこと、本当に嬉しかった。
ほんの少しだけ、ミナトとのこれからを期待してしまったんだ。
元々この島には両親の転勤でやって来て、高校に進学することも決めていたから
中学を卒業したらミナトとは離れ離れになることも決まっていたし、
どうせ実らない思いなのだし割り切れるはずだと考えていたけれど……
ミナトとの壁を越えられた気がして、ちょっとでも可能性があるなら——と希望を見出してしまった。
自分の決めていた将来の中に、ミナトと同じ場所で生きていく選択肢が生まれた。
その希望も選択肢も、たったの数日で消えてしまったけれど。
僕の命はここで終わり。
たとえナギが取り殺さずとも、僕は寒さか空腹でどのみち死ぬ。
いや、死ななければならない。
島民たちの話が本当ならば、僕が死ぬことで祟りは収まる。
僕が死ねば、ミナトは助かるということだから——
僕の命は、ここで終わらなきゃいけない。
……
「……いやだ」
カイリは、猿轡が弛み、露出した口元から震える声を絞り出した。
「いやだ。死にたくない。
クラスのみんなのために死ぬのは嫌だ。
——ミナトのことは助けたい。
ミナトには生きていてほしい。
だけど……
ミナトと一緒に生きる未来が、僕にもほしい。
僕もミナトと生きたい……!」
泣きじゃくりながら訴える声が、闇の中に溶けていく。
いくら懇願したところで、僕の声は誰にも届かない。
僕の願いは叶わないまま、ここで死んで行くんだ——
カイリが諦めて瞼を閉じたとき。
不意に耳元で声がした。
『生きたいのか?』
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