25歳

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「——えっ!?」 ハッとしてカイリが目を開けると同時に、ひっと悲鳴が漏れた。 目の前に、女が立っていた。 見たことがないほど美しい容姿をした女が、カイリを見下ろすようにして立っていたのだ。 足音も気配も無かった。 それにこの人からは生気のようなものをまるで感じられない。 まさか、この人が—— 「……ナギ?」 恐る恐るカイリが問うと、女はこくりと頷いてみせた。 『察しの通り。私はナギだ』 「……っ」 普通に会話ができている。 幽霊と呼ぶにはあまりにも実体がはっきりとしていて、会話もできるとなると 同じ人間同士で話しているようにも錯覚しそうになる。 だが明らかに人のそれとは違うのは、僅かに足が浮いていることだった。 『私はこの森に棲み、何十年、何百年と島の者たちを見て来た』 「……あなたは、この島の人たちのことをよく知っている……んですか?」 恐る恐る、ナギとの会話を続けるカイリ。 『知っている。この森に留まっていようとも、島に住む者たちの暮らしぶりはすべて視えている』 ……だとすれば、ナギはやはり人智を超越した存在なのだろうとカイリは思った。 それならば、祟りというのも信憑生が増す。 「……みんなのことをよく知った上で…… ナギ、あなたは新作中の三年生を祟った。 なぜですか?あなたの怒りに触れるような何かを彼らはしたのでしょうか?」 『この島の者には昔から辟易していた。 いずれこの島の人間すべてを根絶やしにしたいと、もう何百年も思い続けてきた』 「……そんなに前から……」 『先日、お前の仲間たちは肝試しなどと称し、遊び半分に私の棲まう森を踏み荒らした。 ゆえに手始めとして、あの者達を見せしめに祟ることとした』 「……見せしめのために、僕の大切な友人——ミナトは苦しめられているのか……」 『友人、ではないだろう?』 ナギの言葉に、カイリはどくりと心臓を鳴らした。 『お前のことも、お前が友人と呼ぶ者のことも視てきた。 お前はあの者を友人として見てはおらぬだろう』 「……確かに僕は、ミナトのことを邪な気持ちで見ている。 ——だけど、大切な人には変わりない」 カイリは両手を拘束されたままの姿勢で身体を反らせると、ナギを見上げて言った。 「どうかミナトのことだけは祟らないでください」 『……』 「ミナトが意識を取り戻してくれるなら…… っ、僕の命を——あげてもいいから……」 『共に生きたい、と口にしたのは嘘ということか?』 「……嘘じゃない。 だけど祟りを鎮めるには生贄を捧げるしかないんでしょう? ミナトを助けるためなら、僕は——」 カイリが決意を口にしようとした時、ふわりと風がそよいだ。 次の瞬間、カイリの両手を縛っていた拘束が解け、弾みでカイリは石畳の上に顔を打ち明けた。 「ッ——」 両手が自由になったカイリは身体を起こすと、呆然とした様子で両手に目を落とした。 「……あなたが解いてくれたんですか?」 カイリが目を見開きながら見上げると、ナギは驚くべきことを口にした。 『私は生贄を欲してなどない』 「え……!?でも、あなたの祟りを鎮めるにはこれしかないって、島の人たちが——」 『島の者達は、私という存在を誤解している』 ナギはそう言い、呆然と見つめるカイリに向けてこう語り始めた。
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