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——そもそも、数百年前の新作島には祟りなど存在しなかった。
ある時、本土での流行病を島民の一人が持ち帰ったことで島内に病が伝染するという悲劇が起きた。
本土に比べ、超常的な存在を信じる者が多かった新作島の人々は、これは病ではなく祟りの類だと考えた。
そして当時、島唯一の神社で巫女として仕えていた女を生贄にすることが決まった。
女は、島中の者が苦しんでいるのは祟りではなく病のせいではないかと告げたが、
祟りだと思い込んでいる島民達は聞く耳を持たず、女の手足を拘束して森の奥深くに置き去りにした。
女は飢えと寒さによって命を落とした。
それからほどなくして、病の流行が去り、回復する者達が増えていった。
島民達は、女を生贄に捧げたことで祟りは鎮まったのだと捉え、大いに喜んだ。
——だが、女は死して尚、その魂が消えることはなかった。
島民たちの安心と平和のために、ただ一人の犠牲者として残酷な死を与えられた雪辱を晴らすべく、女は森の中でその魂と形を維持し続けた。
女は、自分を犠牲にした島民達の死後、その魂を喰い自身の中に取り込むことで復讐を果たす。
永遠に行き場を失った島民達の魂は、女の中で絶えず悲鳴を上げていたが、それでも女の悔しさが晴れることはなかった。
なぜならばその島民の子孫達が、森の中で自分の姿を目撃して恐怖し、やがて祟り神『ナギ』として扱うようになったからだ。
——かつて病が流行り、生贄を捧げて病が落ち着いていった過程を
『まるで荒れた海が凪いだようだ』と例えた島民がいたことから
生贄を捧げた場所——凪を生み出した場所として『凪の森』と呼ばれるようになり、
そこに棲まう女のことを『ナギ』と呼ぶようになった。
『伝説に残る話は、祟りではない。
あれは病を祟りと信じた島民達の戯言。
だがいつのまにか、私自身が祟りとしての象徴そのものになってしまった。
だが私は私を犠牲にした島民の魂を喰らい、あまつさえ生きた人間にも干渉することのできる力を持つゆえ、今の私が祟り神と呼ばれることは何らおかしなことではない』
——ナギの話を聞いたカイリは、深く息を吐き出した。
「……この島でかつて生贄に捧げられた人物というのは、あなたのことだったんですね……」
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