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「カイリ」
ミナトはカイリを真正面から見つめると、
「悔やまなくていい」
とはっきり告げた。
「カイリのお陰で、俺は自分の気持ちを自覚できた。
とんでもない遠回りはしちゃったけど、あの出来事がなければ俺はずっとカイリのことを友達以上の存在には見れなかったと思う。
俺は自分の気持ちに気付けて嬉しいと思ってる。
ありがとう、カイリ」
「ミナト……」
カイリは目を僅かに潤ませた。
「カイリが今も同じ気持ちでいてくれたら、もっと嬉しいけど」
ミナトはそう言って後頭部をくしゃりと掻いた。
「そしたらさ、俺たちこれからは恋人同士の関係として、新しい思い出を作っていけるだろ?」
「……うん」
「そうすれば——もう新作島での過去とは決別して生きていけるじゃん、俺たち」
「……そうかな」
「そうだよ。『八雲泉』という画家として生きているカイリの人生に、また俺が介入することを許してくれるなら、だけど……。
俺と付き合ってくださ——」
ミナトが言い終わらぬうちに、カイリはミナトを抱き締めていた。
「僕もミナトが好きだ。
ずっと好きだった。今も——」
——1年後。
全国のテレビに新作島が映し出された。
『ご覧ください!島全体が燃えています!
自然発生したと見られる炎が島全体を覆っています』
『島には数百人の島民が暮らしていますが、生存は絶望的——』
異国でしか見ないような大規模な火災が発生している——と、メディアはヘリを飛ばし一斉に報じた。
風もないはずなのに瞬く間に燃え広がった炎は住宅街をも焼き尽くし、
孤島ゆえに消火活動をすることもできず、本土の者達は島を覆う炎が自然に鎮火することを待つほかなかった。
数日後、焼け野原となった島に上陸した本土の消防隊員たちは
新作島で暮らす老若男女の数百に及ぶ焼死体を発見した。
さらに調査を進めると、炎の発火源は森があったとされる場所だということが分かったが、
近くにライターなど発火物となるようなものは見当たらなかったことから
乾燥による自然発火が原因だと断定された。
島に住民票のある人物ほぼ全員の死亡が確認されたものの、
その日偶然にも島を離れていた中年の男女二人だけは奇跡的に難を逃れていた。
——生贄にされ、死んだと思われていた息子が実は生きている、と
息子の恋人を名乗る男から連絡を受けた夫婦が
10年ぶりに息子の顔を見るため、本土に渡っていたのだった。
さらに十数年後——
「かつて島民の多くが亡くなった地」としてホラースポットと噂されるようになった新作島だが
どんなに噂が広まってもその地に足を運ぶ者はいない。
わざわざ船を出して島を散策に行くような奇特な者がいないから——ではなく、
島にはこんな伝説が語り継がれているからだ。
『新作島は凪の神域。
島に踏み入った者は凪の祟りに遭い、業火に包まれてしまう。
かつて炎に焼かれ絶えた、島民たちのように』
完
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