15歳

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「えっ……」 突然話を振られたミナトは、持っていた釣竿を落としそうになった。 「つーか、話聞いてた?」 「……わり。釣りに集中してた」 「あ、そ。クラスの陰キャくんの話してたんだけどよ。あいつウザくね?」 トモヤに改めて同意を求められ、ミナトはごくりと生唾を飲み込んだ。 「……っていうか俺、あいつにそんな興味ないし」 ごめん、カイリ。 俺、カイリのことは嘘でもウザいとか言いたくない。 ほんとはカイリのこと、良い友達だと思ってるよ。 でも、お前と違って俺はこれから先も島の奴らと上手くやってかなきゃいけないから。 お前と放課後毎日喋る仲だってこと、今は隠しておくよ。 ミナトが心臓をバクバクさせながら答えると、トモヤは 「あー確かに、あいつ陰薄いもんなー」 と笑いながら同調した。 「それに俺、あいつの顔も嫌いなんだよな。 なんつーか、女々しい感じ?」 トモヤの悪口は止まらなかった。 「女子より色も白くて気持ち悪くね? なっ、ミナト」 「あー……確かに中性的な顔立ちしてるよなー」 ごめん。ごめんカイリ。 でも、中性的ってそこまで悪口になってないよな? 実際、整った顔してると思うし。 トモヤはぶっちゃけフツメンだから、カイリの顔面に嫉妬してるんだろうな、たぶん。 ミナトが心の中で謝り続ける間にも、トモヤといつメン達の会話は盛り上がり続けていた。 「あーあとさ、英語の授業ん時、ウケね?」 「わかる!めっちゃネイティブっぽく発音するよな! クラスの奴らが半笑いしてんの、本人気づいてないんじゃね?」 「体育でもろくにボール扱えないしさ」 「バスケの授業であいつにわざとボール集めた時なんてさ、オロオロしまくるから皆で爆笑したよな!」 二人の会話に苛立ちながらも、下手なことは何も言うまいとミナトが口を閉ざしていると、 近くで釣りをしていた別のクラスメイトがふいに会話にはまってきた。 「そーいえばさー、俺らが二年だった去年、あいつ先輩に目ェつけられてたよな。 トイレで数人にボコられてんの、偶然見かけたことあるわ」 「!」 ミナトは驚いて思わず身体をクラスメイト達の方に捻ると「何それ?」と尋ねた。 「一個上にちょっとヤンキーっぽい三人組の先輩いたじゃん。 なんか知らんけど先輩方の気に食わないことをしたらしくって、顔以外を殴られたり、タバコで根性焼きされたりしたみたいだぜ」 ……知らなかった。 去年の出来事とはいえ、そんな話、カイリからは聞いたことがなかった。 ミナトは顔面を蒼白させ、クラスメイトたちと解散した後、その足でカイリの家へ向かった。 カイリは自宅で勉強をしていた。 突然の訪問で受験勉強を妨げてしまったことを詫びるミナトだったが、カイリは嫌な顔ひとつせず、ミナトを自分の部屋に通してくれた。 「うち、ゲームとか漫画とかないけど」 お茶と菓子を持ったカイリが部屋に戻って来ると、ミナトは「そんなんいーから」と言ってカイリを座らせた。 「あのさ、カイリ。お前……上級生から暴力振るわれてたのか?」 単刀直入にミナトが聞くと、カイリは目玉を右斜め上に向けた後 「ああ、あれのことね」 と思い出したように視線をミナトに戻した。 「確かに去年、一つ上の人達に呼び出されて——蹴られたり、尿をかけられたりした。下品な連中だった」 「根性焼きもされたって聞いたけど——」 「そうだね。痕、まだ残ってる」 カイリはTシャツの襟ぐりを引っ張り、鎖骨付近についた円形のアザを見せた。 「……先生や親に相談しなかったのかよ……?」 生々しい痕を見せられ、ショックを受けながらもミナトが問うと、カイリは瞼を伏せてふっと笑みを浮かべた。 「——ミナトも知ってるでしょ。 この島で、いじめや暴力は『存在しない』。 島民同士は助け合うのが当たり前だから。 島民に不都合な出来事は全部無かったことにされる」
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