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「……カイリ」
ミナトは目元に涙を浮かべ、ガバリと頭を下げた。
「ごめん——俺、カイリがこんな辛い目に遭ってたのに何も知らなかった。
俺が気づいてやれてたら、先生に報告したり、一緒に登下校して先輩が近づかないようガードしたりできたかもしれないのに……っ」
「いいって」
カイリは口元に笑みを浮かべて言った。
「ミナトは関係ないことだし」
「関係なくねえよ……友達が酷い目に遭ってたことを今更知ってさあ……
俺って友達甲斐のないヤツだよな……」
「気にかけてくれてるだけでも嬉しいよ」
「……なあカイリ」
ミナトは目元に溜まった涙を袖で拭うと、真っ直ぐカイリを見て言った。
「お前が俺に辛い過去を打ち明けようとしなかったのも、俺に助けを求めてこないのも、
進学して島を出たら俺とは他人になるって考えてるからなのか?」
「——え?」
「どうせ縁の切れる相手に、腹のうちを明かしたところで——って線引きしてない?」
「そんなつもりはない……けど」
「けど?けど何?」
「……ミナトに心配かけたくなかっただけだよ」
——カイリは良い奴だから、そんな風に言ってくれるけれど。
今日だって俺は、トモヤに目をつけられるのが怖くて、カイリへの悪口大会に適当に合わせてた。
きっと俺が上級生のいじめに気付いていたとしても、俺なんかが助けてくれるわけないだろうってカイリは思ったのかもしれない。
頼り甲斐もなく、友達甲斐のない俺のことなんて
島を出たらカイリはきっとすぐに忘れてしまうだろう。
新しい土地で新しい友達を作って、夢を叶えるために全力投球して、新作島での日々を思い出すこともないのだろう。
でも、仕方ないよな。
こんな閉鎖的で陰湿な島での日々なんて思い出す価値もないだろう。
俺だってこの島での暮らしを時折息苦しく感じるくらいなんだから。
だけど——
「……カイリ。中学卒業して本土に行ったら、やりたいことに集中できる環境で頑張って欲しいし、夢を叶えて欲しいし、元気でいて欲しいと思ってる。
でも——たまにでいいから、島で暮らした二年間のこと、思い出してくれたら嬉しい」
「……ミナト……?」
「この島で辛い思いをして、もしかしたら二度と思い出したくもないって感じてるかもしれないけど……
俺っていう友達がいたこと——数年に一度くらいは思い出してくれたら嬉しい」
ミナトが喉の奥から絞り出すような声で言うと、カイリはミナトの思い詰めた様子に少々面食らいつつも、不意に唇の端を上げた。
「……数年に一度なんて、随分謙虚な言い方するんだね。
夏休みに入る前、一緒に下校した時にも、僕と『友達だった』なんて今のうちから過去形で言われて、ちょっと傷ついたんだよ?」
「そ——それは」
カイリにとっては、俺の存在なんて
物理的に距離ができたらそれっきり切れるような程度だろうな、って思ったから……
ミナトが口籠もると、カイリは囁くような声で言った。
「……僕にミナトのことをずっと忘れずにいて欲しい、ってミナトが思ってくれてるなら、さ。
僕がミナトのことを一生忘れないような思い出を作ろうよ」
カイリがそう声をかけると、ミナトは顔をぱあっと輝かせた。
「——そうだな!まだ夏休みも半分過ぎたくらいだし、今からでも思い出沢山作ろうぜ!」
「うん」
「カイリ、こないだの海にも花火にも来なかったからさ、正直寂しかったんだよ。
受験勉強もあって忙しいだろうと思って、俺も無理に引っ張り出すのは悪いよなって……。
でもカイリが暇を作れるならさ、二人ででも何かして遊ぼう!」
「うん」
「で、カイリは何したい!?」
ミナトが食い気味に聞くと、カイリは途端に閉口してしまった。
「……?カイリがしたいことなら、なんでも付き合うよ、俺!
島の外までちょっと遠出するのもいいし!
——まあ小遣いの許す範囲で、になるけど!」
「……なんでも付き合ってくれるの?」
カイリはちらりとミナトを見た。
ミナトが「うん」としっかり頷いてみせると、カイリは少し目を泳がせた後、こう告げた。
「……じゃあ……ミナトに触りたい……かも」
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