運迷☆うんめい

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運迷☆うんめい

 二人が出会ったのは一時間前だった。  カボチャ頭のジャックは、ハロウィンで賑わう表通りをはずれ『魔女の棲み家(ウィッチ・リビング)』と呼ばれている墓地を歩いていた。この町に実在し、初代町長に閉じ込められた黒き魔女(ベルゼブ)の墓標が何処かにある。そんな噂のある場所だった。しかしジャックには関係なかった。今年こそは獲物(おんな)にありつこうと、バカ騒ぎする若者が集うダイナー『ムーンキャット』へと急いでいたからだ。  墓地の中ほどにあるツリーハウスができそうなほど大きな老木の根元で、ジャックはうずくまる人影をみつけた。暗闇に慣れた目には、すぐにそれが女だと分かった。 「こんな所でどうしたんだい?」 「近道しようと思ったら転んじゃって」  顔を上げた女は白塗りに血糊をつけたゾンビメイクをしていた。足元を見れば、地面に隆起した木の根っこにつまずいたらしかった。 「もしかしてムーンキャット? 俺も行くところだから、危ないし一緒に行こうか」 「足をひねったみたいで」  女がチェックのミニスカートから伸びた白い足の先へと手を伸ばすと、VカットのTシャツから吸い込まれそうな谷間が覗いた。そのボディーはプリントされたティディベアを間抜けな姿にするほどに豊満なようだった。 「肩を貸してあげるよ。ほら。立てるかい?」 「ええ。ありがとう。あそこでちょっと、足を見てもらえないかしら」  絶好のチャンスにジャックは気づかれないように唾を飲み込んだ。女が指さしたのは、初代町長が眠る霊廟だった。
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