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照れて顔を背けている少女を由希は凝視した。雪を男の子だと信じている由希だが……仕草や表情が男の子に見えなくて、女の子に見えてしかたない。今日一日、隣で魚を捌いている雪をずっと観察していたのだが、色白で、どこもかしこも細くて折れそうなのだ。喉仏だって出ていないし、着物の袖から見える手首なんて由希が掴んでも折れそうだ。女の子だから筋肉質にならないのじゃないかしら……でも。
(よくよく考えたら、陰間の子って線が細い子ばかりだもんね)
そう考えたらゆき君、おかしくないか。
花街の最奥に陰間茶屋がある。そこの売れっ子を由希は一度見かけた事があるのだが、ハッと目を引くほどの美しさで白い百合ような清楚で艶やかさ。あれを近くで見たら、女である矜持が一気に傷ついた。
ゆき君も、成長して今よりも肉付きが良くなればあの男性のように美しく成長するだろう。その面影がこの子にはある。
(でも、色っぽいってよりも可愛いのよねぇ)
頬をほんのり赤く染めながら照れている雪が可愛くて、由希はクスッと笑ってから悩ましい表情を浮かべた。由希が脳裏に浮かべたのは幼馴染の久賀だ。ここ最近は雪に対しての執着を隠そうとしない。女の由希相手でさえこうして会っているのも気に食わないようだし、道端の石ころ相手にも焼きもちを焼く始末。それに、由希という身代わりが居なくなったからか新たな身代わり女を見つけたようである。
『あんた、いつか痛い目見るわよ』
あの忠告は久賀には届いてなかった。
雪に男の欲望をぶつけるわけにはいかないからだろう。病気がちの子に欲望をぶつければ寝込むに決まっている。執着を見せるほど手に入れたいのに大切だからこそ、手を出せずに他所で性欲処理をしている。しかし、雪が丈夫な身体になれば久賀は迷いなく性欲処理の女を捨てて雪を選ぶのだろう。過去の行為が明るみになって、嫌わなければいいが。
「ねぇ、ゆきくん。お金が貯まったら本当に京の元を離れるつもりなの?」
雪が働きたい理由は久賀に贈り物をしたい、という理由とは他のもう一つの理由だ。久賀の元を離れた方が自由で過ごしやすいだろう、とは思っているものの、不安要素は沢山ある。雪はしっかりしているが、中身が健康に追い付いて居ないのだ。久賀の庇護を失い一人生活を送ったら、野垂れ死にしないだろうか……騙されて着ぐるみ剥がされやしないか……。
由希が、雪に訊ねると悩ましげに眉を下げる。しかし、それはほんの一瞬で、不安を掻き消すように笑みを浮かべてみせた。
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