第三章

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 雪は胡坐を掻いた男に横抱きに抱かれて、お尻を胡坐の窪みに埋まる。久賀は雪の身体が冷えないように懐から手拭いを取り出して、雪の首に巻き、どてらを着こんでいる雪の身体の上に、自分が着ているどてらを被せて、彼女の身体を包み込んだ。 「くしゃみをしただけです」 「いつもそう言って、次の日熱が出るだろ」  雪の額に手を当てて「熱はまだないな」と安堵する久賀を見て、「心配性ですね」と雪は笑った。 (僕が風邪ばかりひいているから、少し神経質になってしまっているみたい)  埃を被ってクシャミをしたりしたら、それはもう大変だ。風邪を引いたんじゃないか、とすぐ布団に寝かせようとしてくるし、雪が石に躓いただけでも骨が折れたんじゃないかと騒ぎ立てて、丹念に彼女の身体を調べて怪我をしていないかどうか調べるのだ。 「喉は痛くありませんから、風邪はひいていないようです」  そう報告しても、久賀の不安そうな表情は晴れなかった。  男の表情が暗いままで、雪は困って眉を下げる。彼が元気になる為に、何か楽しい事を話さなければと思うも雪の行動範囲は家の近所までなので話す事がない。しかもつい最近まで風邪を引いて寝込んでいた為に薫とも会えておらず、尚更ないのだ。雪が飼っている鷹の慶ちゃんの世話と家の掃除、食事の買い出しで近所の老人達との世間話……『お天気いいわね』『寒いわね』『無理しないようにね』云々かんぬん……。  そして食事の準備、火を起こして風呂の準備、就寝、これが雪の一日の行動である。今日のような由希の手伝いがある日はまだ良い──由希と会話をするから、その話を久賀に報告ができるから。しかし、由希の話は夕餉中に済んでいる。 「そうだ! 久賀様。僕にお話しがあるんですよね?」    突破口を見つけた、そう思ってパンっと手を叩く。すると、音に反応して久賀は顔を雪に向けて真っ直ぐに見つめた。 「そうだ。話しがある──とても、大事な話しだ」  自分が今から言う発言を脳裏で確かめるようなゆっくりとした口調だ。雪は男の真剣な眼差しを見つめ返して、コクリと頷いた。 「今日の帰り道、雪の妹の捜索の話をしたよな」 「そのお話なのですが、僕の妹を探してもらうのは申し訳ないと思うのです」 「じゃあ、雪が探すと? どうやって探すんだ?」  雪は口を噤んだ。  お金を貯めて、体が丈夫になったら久賀の元を離れて探しに行くつもりだ。だが、それを久賀に言うわけにはいかずに、なんと言えば納得してくれるだろう……。 「顔の特徴を教えてくれ。人探しが得意な知人に伝えて似顔絵を描くから」 「似顔絵をですか?」 「人探しで特徴を伝えて探すよりも似顔絵を見せながら探した方が見つかる確率が上がるだろ?」 (その似顔絵、僕にもくれないかな……)  妹を探す為、というよりも妹の物が何一つ手元にないから似顔絵だけでも欲しいと思った。          
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