第三章

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「あ、あのっ。その似顔絵って多く描いてもらったりして、一枚もらえたりしませんか……?」 「──……」  射抜くように見つめられて、雪はビクッと身体を揺らす。すると、久賀は雪を軽々と持ち上げて自分の目の前に座らせた。どてらを雪の肩にかけて、雪をもこもこにさせる。 「どうして絵が必要なんだ? 自分で探すつもりか?」  自分で探したいと思ってはいる。  でも、似顔絵が欲しい理由はそれじゃない。 「ど、う、し、て、ほ、し、い、ん、だ?」  今度はゆっくりとした口調で再度訊ねられる。聞こえていない、と思ったようだ。   「僕は妹の物を一つも持っていなくて。だから、妹の似顔絵でも欲しいなって思って……一枚多く描いてもらうって大変ですよね……」  しゅん、と落ち込んだ。  我儘を言って困らせてしまったかもしれない、と思って雪は俯いた。  手先が器用で裁縫や料理が得意で文字を書く事も読む事もできる。しかも達筆だ。そんな雪でも唯一苦手なものがある──絵だ。あれだけは苦手だった。 「桜は絵が得意だったから、僕の似顔絵をぱぱって描いていたんです。だから、描ける人にとったら簡単なのかなって思ってました……」  言葉を発さない久賀の様子が気になるも、怒っていたらどうしようと思って顔を上げられない。己の手の爪をジッと見つめていたら、久賀がやっと声を発した。 「そういう事か。多く描いてもらえるように頼むよ」  その言葉を聞いて、雪は勢いよく顔を上げる。 「良いのですか? 大変だったりしませんか?」 「一枚も二枚も変わらんだろう。大丈夫さ」  片方の口角を上げた久賀に、雪は笑みを溢した。絵が得意な人にとったら、何枚描こうが変わらないらしい。 「僕の妹、時間さえあればずっと絵を描いてました。風景画も得意で、人物画も得意だったんですよ。僕の似顔絵ばかり描いていて」 「そうか」  久賀が穏やかに笑って聞いてくれている。それが嬉しくて、葵依は桜の話を続けた。   「桜は僕の似顔絵を持ってるんです。桜が見つかったら本物かどうか見抜く方法は、似顔絵を持ってるかどうか確認したら良いと思います。あと桜柄の櫛を持っていて。これは大福屋にいた頃に頂いた初めてのお駄賃で、桜に贈ったんです」  桜はあの櫛を大事に使ってくれているだろうか。
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