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桜を思い出しながら懐かしさに目頭が熱くなる。
(やっぱり、桜は僕が探すべきだ)
そう思うのに、久賀に上手く伝えられずに雪は桜の特徴を久賀に伝えた。
「髪色と瞳は赤銅色、逆三角形の輪郭で目はぱっちり切れ長で二重、鼻は高いです。唇は薄め。髪は癖っ毛です。背は僕より高くて、桜の方が姉だと思われちゃいます」
「分かった。この特徴を伝えるよ」
久賀が、口元に笑みを浮かべて雪の頭を撫でる。その優しい感触に、雪は身動きして頭を撫でてくれる手に、己の頬をスリスリと擦り付けた。
頬を擦り付けていたら、彼が指先で目の下を撫でてくれる。それが擽ったくて雪はホニャリと笑った。真っ直ぐ自分を見てくる眼差しさから感じる優しさが素敵だ。
僕が風邪を引いたら、自分の事は二の次にして僕の看病をしてくれる。僕の妹を探してくれるのも、全て久賀様の優しさなんだ。
本当は、その優しさに甘えていたい。でも、いつまでも一緒に居てはならないのだ。久賀様の自由を僕が奪っているのだから。
「妹を見つけたら、此処に連れてきたら良い」
「──ここへ?」
「部屋は沢山余っているだろ?」
桜までお世話になってしまったら……そんな事になれば僕は、もっと離れ難くなってしまう。久賀様にもっと依存してしまうじゃないか。
雪の揺らぐ決意を知らないであろう──久賀はただ穏やかな表情を顔に浮かべて微笑んでいた。その目の奥に見える男の瞳が黒く濁っている事実に雪は知る由もなかった。
「雪」
名を呼ばれて、男を見る。
久賀の手が頬から離れて、寂しく感じていると彼の手は雪の小さな手を握りり締めた。
「大事な話はまだ終わっていないんだ。先月、雪が働く条件に俺に何でもする、って話覚えているか?」
下から覗くように顔を見られて、雪は「勿論です」と答える。
「久賀様が喜んで下さるなら、僕は何でします。もしかして、お背中を流すとか……?」
そう言うと久賀は首を傾げて曖昧に笑った。どうやら……違うようだ。
考えを巡らせて、眉間に皺を寄せる。真剣な眼差しで久賀を見つめていると、ある考えに辿り着いて雪は「あっ」と声を上げた。
「分かりました! もしや胸を触るとかですか? 僕の胸はあまり大きくありませんが……久賀様がそれでも良ければ……」
去年の神無月に久賀から身体を触られて以来、指一本触れられていない。しかしあれは久賀からのお願い事の一つだった。彼はあれをしたい、と思っているのではないか。
(でも、あれは……すっごく恥ずかしいから……嫌だな……)
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