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身体が自分のモノじゃないように自由が効かない、何も考えられなくなる──神無月のあの出来事を思い出して、雪は頬を真っ赤に染めた。そして、自分がとんでもない発言をしたのではないか、と時間差で気付く。
(胸を触るとかですか? って……久賀様がそれでも良ければ……ってあれを自ら許可したようなものに聞こえる)
久賀様のお願いだから許したのだ。こんなに小さな胸を触られるのは、正直恥ずかしくて堪らないのに、自ら勧めてどうするんだ。
雪は久賀の顔が見れなくなって、顔を赤くしたまま俯いた。
顔に溜まった熱が冷めるまでこうしていると、ふと、何でもしますと言った言葉は胸を触りますか、という自分の出した答えに結び付いていない事に雪は気が付いた。
「ごめんなさい、久賀様。僕、おかしな発言をしました。何でもします、というのは僕が久賀様にする事ですよね。だから、さっきの胸を触りますか発言はおかしいですよね」
ゆっくりと顔を上げると、久賀と目が合った。
「俺のお願い事はまず今日は置いておこう。雪の胸を触りたいけど……服を脱がしたらまた風邪をひいてしまうかもしれない」
(触りたい、って思っているんだ……)
僕の小さな胸でも気に入ってくれたみたいだ、と嬉しくなる。久賀様のお役に立てていたようだ。
「雪が俺になんでもしてくれるんだよな? それは本当に何でも良いのか?」
念を押されて雪は強く頷いた。自分で言った発言だ。無下になんかしない。
「本当の本当だな? 拒否したり出来ないんだぞ」
「拒否なんてしませんっ。僕は僕の発言に責任を持ちますっ。僕が働くのを許して下さったんですもん、僕は久賀様になんでもします」
殴らせろ、と言われたって僕は構いません。
雪がそう言うと、久賀は凄く不快そうに顔を歪めた。
「俺はそんな事は言わない」
「久賀様はお優しいですから、言いません。分かってますよ」
「言わないし、そもそも俺は雪を殴らない」
「はい」
今まで出会った男性で、久賀様は一番お優しい。
大福屋で僕を買おうとしていた人は、初対面の僕のお腹を殴ったし買われた後も殴ったり蹴ったりしたり。それから、あの人のように僕を竹刀と鞘に収まった刀で僕を殴ったり……久賀様は絶対にしない。ふとした瞬間、雰囲気があの人に似ていても、それは雰囲気だけで中身は全く別物だ。
(久賀様は僕を傷つけない)
でも、心の底から久賀に何されても良い、と雪は本気で思っていた。
それだけの想いでなければ、久賀へ恩返しができない、と雪は決意していた。
「……雪」
「はい。久賀様」
「俺は雪を殴らないし、殴らせろなんて言わない。それ以外で俺は雪にして欲しい事がある。拒否しない、って言葉に嘘はないな?」
「はいっ!」
元気良く返事をすると、久賀は一瞬だけ固まってしまった。どうしたんだろう、と思って首を傾げて心配した顔で見つめた。そして、久賀は視線を泳がせた後に雪の目を覗き込んで、ゆっくりと口を開いた。
「──俺のを手で触ってくれ」
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