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「──おえっ……!」
吐き気がして、えずいてしまう。
昼餉に、雪の握り飯を食したが吐かなくて良かったと久賀は、そこは冷静に思った。
太助の戸に触れた手がカタカタと震え、もう片方の手で押さえて震えを止める。雪に、話しを聞かれている事を知られてはいけない。
(雪は、俺から離れようとしている)
──だから、金を貯めようとしているのか。
それは決して、俺に贈り物を贈りたいとかいう理由ではなく、その根底に隠されていた本音は、俺から離れる為の資金集めだ。
雪が桜を探したい、会いたいという気持ちは彼女を見ていたら分かる。桜を語る時、彼女は久賀の知らない表情をするのだ。桜が愛おしくて堪らない──桜に会いたい、桜と話したい、桜が恋しい。
(俺には、そんな表情を見せない)
愛おしそうに、恋しそうに、一度でいいから俺を見てほしい。
「……ははっ。一度でいいのか?」
一度で足りる筈がない。
一度見てもらえたら、二度、三度と何度でも求めるだろう。
(雪に愛してほしい)
そう願っている。
大事にしたい、雪を手に入れたい。でも、行動に移せば身体が弱い雪には耐えられない。
(これは、言い訳だ──……)
昔の俺なら、身体が弱かろうが抱いていただろう。
何度、雪を凌辱したいと思っただろうか。頭の中で何度犯しただろう──お願いごとと称して、雪の身体に触れて、あのまま挿れてしまいたいと、何度思った事か。
実行に移さないのは、嫌われたくないからだ。俺に信頼と信用を寄せてはいるが、それが確実なものだと実証がない、怖い。怖いのだ。
もしも拒絶されてしまったら、俺はそれこそ耐えられない。雪を本当に傷付けてしまう──心を傷付けてしまう。俺は、雪の心がほしいのに、二度と手に入らなくなってしまう。
(何が足りないんだ?)
分からない。
分かれば苦労しない。
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