第三章

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   妹を探させない為に、俺が知人に頼んで探させると言ったのに。  俺から離れたいから、自分で探そうとしているのか……。  雪にそれをさせない為に、こっちが先に見つければ良い。  しかし、探せなかったら──雪は俺のところから出て行ってしまう。  (若しくは──諦めさせるか)  二度と、桜を自分で探させない為にはその手しかない。  諦めてしまえば、雪は俺から離れようとしない筈だ。 (希望()を奪えばいい)  男の胸に、埋まらない空洞がある。  底が見えない穴は、真っ暗なせいで覗いてもどれほどの深さか定かじゃない。    暗く、黒く、堕ちていく。  底はどこだ。 「久賀様、お加減が優れないですか……?」  心配した声音に久賀の思考は浮上した。  天井を仰いでいた首を戻して目の前の雪に視線を戻す。彼女は眉を八の字に下げて情けない表情でこちらを見ている。大丈夫ですか、と今にも泣き出しそうな声で、心配してきた。 「すまん、何でもない」 「僕の風邪がうつったのでは」 「雪が寝込んでいたのはいつの話だ。俺は大丈夫だ」  安心させる為に、雪の柔らかな髪を右手で優しく撫でてやると、彼女は心地よさそうに目を細めた。  そして、久賀の掌に頬を猫のように擦りつけてくる。 (俺から離れたいと思っているように見えないな)  こういった甘えるような仕草が、久賀は堪らなく好きだ。心を開いているに感じるのに、全部を与えてくれない。 「……俺がしてほしい、って話の続きだが」 「触ってほしい、というお話ですよね」 「あぁ」  お願い事と称して、彼女の躰を手に入れたい。  だが、その欲望を成し遂げる度胸はない。  無理をさせて、嫌われたくないし、それに体調を崩してしまい、さいあくの場合命を落としてしまう、そんな目にだけは遭わせたくなかった。  だから、お願い事ではない、それでも雪に触れられて、そして身体の負担にならない事を模索した。  考えあぐねた結果が、 「俺の魔羅を触ってくれ」  雪を裸にできないが、彼女の手で久賀に触れてもらえる。  触れ合える。 「魔羅とは?」 「……そうきたか。分かってたよ。予想はしてた」  見世に居た癖に、性的な事に触れないように軟禁状態だった。そして今も久賀が雪に余計な情報を与えないように裏で手を引いている。そんな雪が魔羅と言われてピンとくる筈がない。  苦笑した久賀を見て、雪は呆れられてしまったと傷付いた。  それを撤回しようと必死になり、髪を撫でている久賀の手をギュッと握り締め、己に引き寄せた。久賀の手を両手で包み込んで、真っ直ぐに久賀を見つめた。 「ぼ、ぼく、何も分からない人間ですが、久賀様の為なら何でもしますっ!」  
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