第三章

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 雪に直接見せるのは拙い、という理性だけは働いて久賀は着物は脱がなかった。  向かい合った雪の小さな手を褌の下に誘い、直接触れさせる。自身に小さくて生々しい温度の柔らかい手が触れただけで堅さが増して、久賀は内心で苦笑した。   「熱くてドクドク、してます……」  感想を述べてくれる雪のこめかみに口付けをすると、彼女の肩が小さく揺れる。 「僕、手の中のまっ、まっ魔っ」 「無理に口に出さなくていい」 「……はい」  言葉に詰まった様子で、雪は精一杯そう返したようだった。  雪が何かを探すように視線を動かした。その目と久賀は目を合わせると、彼女の形のいい唇が震える。 「これ、を僕はどうしたらいいですか……?」  不安そうに揺れる目を見つめながら、久賀はゆっくりとした口調で話す。 「手をゆっくり上下させて」  そう教えるも、戸惑って雪は中々手を動かせない。久賀は手を伸ばし、彼女と手を取り、ゆっくりと上下させる。 「こんな感じで動かしたら良いよ」 「分かった?」と訊くと雪はコクコク頷いた。  顔を赤くした彼女を見つめながら、久賀は雪の手を離す。久賀の手をなくした彼女は、彼の指導がないまま、今度は自分の意思で手をゆっくり上下に動かした。   「痛くないですか……?」 「大丈夫」  雪は手の中のそれを摩り続けた。  柔らかい手が気持ち良い──暫くすると雪の手が動く度に、シュッシュッと小さな音と粘着音が響く。   「……この音、聞こえる?」  彼女の右耳でそう囁くと、雪は小さく首を傾げた。彼女の耳には届きにくい音のようだ。 (残念だな)  心中でそう呟いた。  目線を落とすと、着物の裾から雪の胸元が見える。小さな膨らみを潰すように巻いたさらしが手の動きに合わせて隙間からチラチラ見える。あのさらしの下にある胸に、もう一度触れたい。 (お願い、と言えば叶えてくれるだろうが)  寒い夜に肌を曝け出せば体調が崩れてしまう。もう少し健康になるか、暖かくなってからが良いだろう。 (その前に、お金を貯めてしまったら──……)  雪がお金を貯めたとしても、出て行かせなければいい。 (妹を)  久賀の隣に位置を変えた雪の髪が、久賀の鼻を擽った。柔らかい髪、清潔な匂い……。  雪はずっと俯いたままだった。  髪から覗く耳が赤い。一瞬、熱でも出たんじゃないかと不安が過ったが、 「ずっと、触ってたら、大きくなります……」  という言葉で思考が停止した。
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