3.彼の真実 ※

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「それって、本来は塩が通常だってこと?」 「塩?」 「えっとね、瑞樹、人は優しくされて笑顔を向けられる方が嬉しいよね。瑞樹はさ、反対なんだよ。俺が話しててもろくに笑わないよね?」 「直に愛想笑いはいらないだろう?」 「んん? まあ……。でも、あんまりLINEに返信もくれないよね?」 「苦手だから基本はしない。うるさそうなのには返すけど。……直のは、遅くなっても返信するようにしてる」  でも、気づかないことはあるかも、とどこか不安げに呟く。  じゃあ、沢田たちへの即レスは何なんだと思って聞けば、公私関係なく全部仕事だと思って返信しているらしい。 「……ううーん。出かけようって言っても、どこにも行きたがらないし」 「家がいいんだ。直と二人きりだし」  ――ちょっと、動悸が激しくなる。 「あ、あと! 俺が瑞樹を見てると顔背けるよね!」  瑞樹の頬がほんのりと赤くなる。 「……襲いたくなるから」 (……は?) 「一生懸命話してくるの、可愛いだろ? だから我慢できなくなるとまずいなって」  瑞樹は海を見たままだ。 「……あ。あともう一つ! 前に俺の家で怒ってたよね。壁を見て」 「直、お前、壁に何貼ってたか覚えてるか?」  壁にはコルクボードを張り付けて、写真を貼ってあった。 「あれ、お前と幼馴染の写真ばっかり……」 「だって瑞樹が写真は嫌いだって言うから、二人の写真がなかったんだよ」  仕方ないから、雪や他の友達と出かけた写真を貼っておいた。 「……これからは、もう言わない」  俺は、頭の中で情報を整理した。  あまりにも常識が違って戸惑うけれど、大事なことはわずかだ。 「瑞樹、俺、甘いものが好きなんだ。瑞樹のことも理想通りの甘いタイプだと思って好きになった」  海鳴りの音だけが俺たちの間に響く。 「最近ずっと塩対応だったから、瑞樹は俺のこと嫌になったんだと思ってた。今回のが決め手だって」  じっと俺が見ても、瑞樹は膝の上で指を組んだまま微動だにしない。勘違いだったらかなり恥ずかしいけど、俺は思い切って聞いた。 「ねえ、もしかして。瑞樹って……、俺のこと、好きなの?」  瑞樹は顔を伏せたまま、こくりと頷いた。  ――青天の霹靂(へきれき)、って言うのか、これ。  潮風に吹かれ過ぎたせいか、衝撃を受けたせいか、体が震えた。ホテルに戻ると言えば、瑞樹が一緒に来ると言う。  フロントで瑞樹が部屋を取った時、俺は思わず外を見てしまった。その後しっかり手を握られて、部屋まで来た。俺たちは、ホテルのベッドの上に並んで座る。 「……直」 「は、はいっ」 「俺は、直の好きなタイプじゃないけど」 「……うん」  瑞樹は眉を顰めながら、それでも真っ直ぐに俺を見た。 「別れないでほしい。出来るだけ頑張ってみるから。直の好きな甘いタイプになれるように……」
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