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「あの様子だと、何か言いたいことがありそうだったけど……。直さえ無事ならいいんだ。何かあったら、すぐ連絡よこせ」
この時間じゃろくに寝てないだろうに、雪には悪いことをした。土産を買って帰ると約束して、電話を切った。
ホテルの窓からは海が見える。明るい空と海の色に心が浮き立ち、俺は海に向かった。
朝の浜辺にいるのは散歩する人、犬連れの人、そして、サーファーたちだ。夏ならまだしも、今は秋なのに。寒さも関係なく海に入る姿に、すごいなあと感心する。
海までの途中にあったコンビニで、フルーツサンドとおにぎりと牛乳を買った。昨日、勇気くんに会った階段まで歩いていく。なんとなく最初の場所に戻る感じだ。
潮風に吹かれながらの食事は気持ちがいい。おにぎりを食べて、デザートのフルーツサンドにとりかかった時だ。海から上がってきたサーファーたちが手を振ってくる。
「な・お・さーん! おはよー」
「ぅわっ、勇気くん……」
長袖半パンのウェットスーツを着た勇気くんは、体格のいいのがよくわかる。隣には、同じぐらいの背で、こちらもまたよく陽に焼けた男子がいる。二人はサーフボードを片手に、にこにこと笑っている。
(ツワモノが多い……)
俺は既にひと泳ぎしてきたらしい猛者たちに動揺を隠せなかった。
「朝からサーフィン?」
「この時間は人が少ないから一番いいんだ。それに、夜になったらバイトあるし」
「すごいなあ。泳いだ後に大学行って、バイトもするのか。俺ならそのまま寝てるな」
「まあ、好きなことなんで」
にこにこ笑う勇気くんも、その友だちも気さくだった。海をバックに三人で写真を撮る。SNSに載せていいかと聞かれて頷く。よく日に焼けたサーファーたちの真ん中で、自分だけがやたら白くて場違いなのが笑える。後で瑞樹に送ろう、と思ったところで首を振った。
(……もう、関係ないんだから。アイツに何か送ることなんて二度とないんだ)
そんなささいなことに、胸が痛む自分が嫌だった。勇気くんが、じっと俺を見た。
「ねえ、直さん」
「ん?」
「何かあったら海がいいよ! どこまでもデッカイから、すっとするし! それこそ、甘く見たらひどい目に合うし、塩なとこは誰にも負けないけどさ。それでもやっぱり最高だから!」
(……塩なとこは、誰にも負けない)
「まあ、海だもんね……」
真剣な顔で頷く勇気くんに、思わず吹きだした。
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