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勇気くんたちが波に乗る姿を眺めてから、俺はホテルに戻った。折角だからここで連泊して、ゆっくりと休日を楽しめばいい。最初から一人旅に来たと考えたら、結構楽しくなってきた。
フロントで聞けば、連泊は可能だった。駅の隣には、観光協会のレンタサイクルがある。浜通りを自転車で走って、夕飯はまた勇気くんのバイト先で食べよう。
そう決めたら、シャワーを浴びて、のんびり憧れの二度寝だ。ベッドに入ればあっという間に睡魔が押し寄せる。再び目覚めた時には、昼を回っていた。
(……こんなによく寝たの、久しぶりだ)
どこかでずっと、気を張って生きてきた気がする。少しずつ気持ちが楽になって、楽になった分だけ不意に寂しさが押し寄せる。
「こんな時は、動く!」
素早くTシャツの上にパーカーを羽織る。眩しい陽射しを見ながら早足で駅まで歩くと、ちょうど特急が止まったところだった。レトロな駅舎の中から、乗客がぞろぞろと降りてくる。土曜だからだろうか、旅行客が多いように見えた。
観光協会の建物前にスポーツバイクがずらりと並んでいるのを見て、中に入ろうとした時だった。腕をいきなり、後ろからがつっと掴まれた。
「ひっ!」
振り向いたら――――……。塩が、いた。
「み、みずき……? どうして?」
あんまりびっくりしすぎて、つい普段通りに話しかけてしまった。よく見慣れた端正な顔が、必死の形相でこちらを睨みつけている。
「どうして? そんなの、こっちが聞きたいわ! 何でお前、いきなり削除してんだよ!」
「削除……?」
「LINE!」
「ああ」
ギリッと奥歯を噛む音がする。こわ!
「連絡つかないし、ホテルはキャンセルされてるし、家に行ってもいないし」
「え……だって、休みとってたから、そのまま電車乗ったんだよ。瑞樹は仕事に行ったんでしょ」
いつも爽やかなイケメンが、スーツはよれよれで、髪も乱れている。余程忙しかったのか。
「仕事には行ったけど……、そうじゃねえ! ずっと、お前を探し回ってたんだろうが!」
「へ?」
「どこにいるかわからないし、お前の幼馴染に聞いたらめちゃくちゃ嫌味言われるし」
瑞樹はぐしゃ、と片手で自分の髪をかき回した。
「確かに仕事が入ったってLINEいれたけど、その後があったんだ。仕事終わったらすぐに追いかけるから、先に行けって言いたかったのに」
…………ちょっと待って。
「だって、俺、少し返信待ったよ。続けて何も来ないから」
「課長から電話が入って話してたんだよ。お前に連絡しようとしたら、さ、サヨナラって……」
瑞樹は普段の無表情とは別人のように青ざめている。呆気に取られていたら、周りからちらちら見られているのに気が付いた。ここは観光協会の入り口だった。
俺たちは慌てて、駅のロータリーを歩く。頭の中はぐるぐる混乱したままだ。
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