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3.彼の真実 ※
「えっと……、瑞樹は旅行に行きたくなかったんじゃないの?」
「誰がそんなこと言った」
「いや、言ってないけど。でも、全然嬉しそうな様子なかったし、興味もなさそうだったから」
「……別に」
(うん、そうだよな)
「いつも、瑞樹は別にって言うから、俺の話はどうでもいいんだと思ってた。俺、気が付いたんだよ。瑞樹は俺のこと、持て余して……たのかな、って」
流石に、自分で言ってて胸が痛い。瑞樹がぴたりと立ち止まるので、俺も足を止めた。
瑞樹はハ――――と、大きな大きなため息をついた。
「直。……ちょっと、話そう」
黙ったまま、瑞樹は俺の手をぐいぐい引いて歩く。駅の前から坂を下れば、晴れ渡った海がすぐ目の前に見える。
「直が写真に映ってた場所はどこなんだ?」
「写真?」
瑞樹は俺の目の前にスマホをずいっと出した。浜辺で三人の男が笑っている。
「あれ……、これ?」
今朝、浜辺で勇気くんたちと撮ったものだ。
「何で瑞樹が?」
目の前の浜辺を指差せば、瑞樹は黙ったまま、通りを渡って階段を降りる。勇気くんたちと写真を撮った場所を教えると、そこまで歩く。瑞樹は俺の隣に立って、二人並んでの自撮り写真を撮った。
(……どうなってんの?)
わけがわからない。
今まで、瑞樹が自分から俺と写真を撮りたがったことなんかない。言葉もないまま、俺たちは二人並んで海を見た。
一面の青い空と海とが、真っ直ぐな水平線で綺麗に分かれている。瑞樹は真剣に見つめていた。空にはカモメが飛び、太陽が輝く。秋の空と海はどこまでも青く美しい。
「なお……」
「えっ?」
「俺は、お前のことを持て余したり……してないからな」
瑞樹は俺の目を見つめたかと思うと、少し背を屈めた。そっと唇に柔らかいものが触れる。
(今の……)
呆然としていると、瑞樹は俺の手を引いて階段まで連れて行った。座った瑞樹の隣に腰かける。
瑞樹はうつむいて、ぽつぽつと話し出した。本当は人前で愛想よく話すのも、LINEも好きじゃないこと。誰とも交流しないでいると色々面倒なことになるから、適当に合わせるようにしてること。
「昔から、気を許すとどんどん素っ気なく無表情になるって言われてた。前の支店でも散々言われて、本店に行ったら、とにかく愛想よく生きろって支店長に怒鳴られたんだ。先輩も支店長も面倒見がいい人たちで、無愛想な俺を育ててくれた。だから、異動直後は必死だった」
異動直後の瑞樹。優しくて甘い声で、誰に対しても柔らかに微笑む理想の男。
――俺が惚れた時か。
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