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6. 天使の雨
公園のベンチで昔を回想していると、ぽつりぽつりと雨が降り出し、すぐに本降りになった。
空は青く、お天気雨のようだった。
今日子は天を仰いで、すべてを洗い流すようにキラキラと降り注ぐ雨を一身に受けた。
老けたメイクを洗い落としていくのも構わなかった。
ふと視線を感じて振り向くと、近くで若者が今日子にスマホを向けていた。
「すみません。とても美しくて、天使のようでした!」
素直な称賛の言葉に、今日子は意外にも頬を染めた。
「あれ?」
彼は今日子に近寄り、驚いたように言う。
まずい、バレてしまったかと今日子は焦る。
「あの、女優の久遠今日子さんに似ていますね。でもずっと若いし綺麗だ。僕、映画監督の卵なんです」
岩瀬航大と彼は名乗った。
「卵?」
「はい。大学で映像を学んで、今はVシネマやCMの助監督をやってます。でも、ここに」
岩瀬は名刺を今日子に差し出し、印字されたURLを指さす。
「個人で撮った短編映画を公開してるんで、よかったら見てください。そして、もし気に入ってくれたら、僕の映画に出てくれませんか?」
「あなたの映画?」
「はい。次の自主制作のヒロインを探していて、あなたがイメージにぴったりなんです!」
岩瀬はそう言うと、持っていたビニール傘を今日子に渡す。
「あ、これ。風邪ひいちゃうんでどうぞ。じゃあ、連絡待ってます」
そう言って、駅の方向へ走り去って行った。
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