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実はタマはその昔、八尾比丘尼が人魚の肉を食べた時におこぼれをもらって永遠の命を得た猫だった。
長い年月を生きてきて、人間の言葉を話せるようになっていた。
タマには人魚の肉や血で永遠の命を得た同類を嗅ぎ分ける力があり、ある日、「おい、そこの女」と今日子が呼び止められてからの付き合いだった。
もう十年近く、今日子の部屋を根城に、自由気ままに暮らしていた。
今日子にとって良き相談相手で、時にはマンションの周りに張り込むマスコミを見つけ知らせてくれるボディガードでもあった。
まさか記者達も猫が人の言葉を理解するとは思ってないから、話の内容は筒抜けだった。
「お前が四十、五十になったら、頻繁に起きる問題だ。久遠今日子を傷つけずにどう終わらせるか、お前が永遠に女優として演技を続けるために何が必要か、もう一度よく考えてみるんだな」
謎かけのように聞こえた。タマには答えがわかっているのだろうかと、今日子は考える。
「それと」
タマは続けた。
「俺がこの町に来て、もうすぐ十年だ。俺は同じ町には十年以上住まないと決めている。猫も若いままでは怪しまれるのでな。そろそろここをお暇しようと思う」
「えっ」
今日子は言葉を失った。大切な同志を失う気分だった。
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