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「お互い、永遠の命がある身だ。どこかでまた再会することもあるだろう」
タマはそれだけ言うと、「歌舞伎中継が始まるんだ。江戸の芝居小屋で見た初代の弁慶も良かったが、当代もなかなかのもんだ」と、呑気にテレビがある部屋へ消えていった。
一人になった今日子はバスロープ姿で寝室へ行き、ベッドに横になるとタマに言われたことを考えた。
するとスマホに着信が入る。市村からだった。
「もしもし」
「すまん、今日子。田代が三日後、『天使の祈り』キャスト発表の記者会見を開くとマスコミ各社に連絡した。お前のほかに、海藤一馬と森乃揚羽が登壇する。マスコミに森乃のことをリークしたのも田代らしい。大口スポンサーは森乃の起用に乗り気のようだ」
いよいよ追い詰められた気分だった。
無言で電話を切ると、ふと思いついて先ほど岩瀬がくれた名刺を取り出した。タブレットで彼の短編作品を視聴する。
美しい映像だった。あの若い岩瀬が撮ったとは思えない、心に清々しさと切なさが残る良質の作品だった。
見終わったところで、今日子はある決意を固め、市村に電話をかける。
「田代が用意した記者会見と同じ時間で場所を押さえて。そして久遠今日子の引退会見をすると、そうマスコミに連絡して頂戴」
電話の向こうの市村が絶句した。
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