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「さあ、こっちよ」
エレベーターが地下に着くと今日子は海藤の手を引いて駐車場へ出て行き、そのまま歩いて駐車場の出口へと案内する。
坂を上った先にある通りは暗く、人の気配はない。
「ここからお帰りなさい」
今日子はそう言って男の手を放す。
ところがその時、坂の上に小さな動物が現れ、「にゃあ」と鳴いた。さっきの猫だ。
「あ、だめ、見張りがいるみたい。戻りましょう」
今日子は踵を返すと、海藤の手を引いてエレベーターホールに戻り、エレベーターで一階に上がる。
「どうして?」
今日子の行動を訝しむ。
「記者が駐車場の出口で待ち構えているわ。正面玄関の方が安全よ」
今日子は一階の豪華ロビーを通り抜け、海藤を正面玄関へ連れて行く。
「じゃあ、またね」
今日子は微笑む。
海藤はうっとりした表情で今日子を振り返りながら、正面玄関を出て行った。
「ふう」
今日子は安堵の溜息をつくと、二重になった正面玄関の自動ドアの一つ目を出た。すると、二つ目の自動ドアの向こうに、さっきの猫がいた。
「にゃお」
待っていたぞと言うように、猫が鳴いた。
黒猫だが眉毛の部分と四本の足先が白くなっていて、眉毛の部分が若干垂れて情けない顔に見える。
「タマ、ありがと。帰りましょう」
ドアを開けてやり入ってきた猫を抱くと、ロビーを横切りエレベーターホールへと向かった。
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