1. 久遠今日子

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「さあ、こっちよ」  エレベーターが地下に着くと今日子は海藤の手を引いて駐車場へ出て行き、そのまま歩いて駐車場の出口へと案内する。  坂を上った先にある通りは暗く、人の気配はない。 「ここからお帰りなさい」  今日子はそう言って男の手を放す。  ところがその時、坂の上に小さな動物が現れ、「にゃあ」と鳴いた。さっきの猫だ。 「あ、だめ、見張りがいるみたい。戻りましょう」  今日子は踵を返すと、海藤の手を引いてエレベーターホールに戻り、エレベーターで一階に上がる。 「どうして?」  今日子の行動を(いぶか)しむ。 「記者が駐車場の出口で待ち構えているわ。正面玄関の方が安全よ」  今日子は一階の豪華ロビーを通り抜け、海藤を正面玄関へ連れて行く。 「じゃあ、またね」  今日子は微笑む。  海藤はうっとりした表情で今日子を振り返りながら、正面玄関を出て行った。 「ふう」  今日子は安堵の溜息をつくと、二重になった正面玄関の自動ドアの一つ目を出た。すると、二つ目の自動ドアの向こうに、さっきの猫がいた。 「にゃお」  待っていたぞと言うように、猫が鳴いた。  黒猫だが眉毛の部分と四本の足先が白くなっていて、眉毛の部分が若干垂れて情けない顔に見える。 「タマ、ありがと。帰りましょう」  ドアを開けてやり入ってきた猫を抱くと、ロビーを横切りエレベーターホールへと向かった。
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