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2. 化ける女優
久遠今日子は“化ける女優“と言われていた。
十代の頃、日本を代表する劇作家の一人、二階堂孝嗣に見いだされ、彼の舞台の端役でデビューし注目を集めた。
二階堂は今日子の天性の才能を見抜き、彼女のために『天使の祈り』を書いた。彼の遺作でもあるこの作品は、華族制度が引き裂く身分違いの恋の顛末と、夢の中に現れる堕天使との契約によって逆境を生き抜いていくヒロインの一生を描いたものだった。
十代から七十代までのヒロインと、ヒロインと亡き恋人の忘れ形見である若手女優、そして堕天使役を一人で演じ切り、一躍、今日子は人気女優となった。
舞台からスタートしたキャリアは、今や映画、テレビドラマと活躍の幅を広げ、十代前半の少女から老婆の役までなんでもこなす演技力と美貌に、「隣のお姉さん」「お嫁さんにしたい女優」「上司にしたい女優」「理想の母親」とマスコミはさまざまな称号を与えてきた。
しかしその裏で、久遠今日子は『天使の祈り』の役を、枕営業で得たなどという噂がまことしやかに流れたこともあった。けれども今日子は、そう言った噂に臆することはなかった。
(実際、二階堂先生とはそんな関係ではなかった)
今日子は懐かしく思い出す。
二階堂とは、師と弟子として、深い絆で結ばれていた。
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