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二階堂は死の間際、『天使の祈り』を今日子に贈った。これにより彼の死後、今日子の許可なくこの作品の上演や映像化はできなくなった。
ラストシーンが雪のクリスマスの教会であるため、年末になると東京や大阪の舞台で『天使の祈り』が上演されるのが定番になっていた。
三十七歳になった今でも、今日子は十代から七十代までのヒロインと、堕天使役、それに娘役を一人で演じていた。
『天使の祈り』の相手役は若き将校で、早くに戦死する。そのため、若手俳優が抜擢されるのだが、今日子はまだ色のついていない、無名に近い役者を望んだ。彼らが今日子の相手役で一躍有名になり、芸能界へ羽ばたいて行くのを見るのが好きだった。
今日子は決して素顔を他人に見せず、自分のメイクは専属のメイク担当以外には任せない。そのため、こんな噂も立っていた。
――三十七歳であの若さなのはきっと秘密がある。だから他人に素顔を見せないのだ――
――三十七歳なんて嘘だ。デビュー当時からのあの円熟した演技。きっともっと年齢がいってるんじゃないか――
いつしか今日子は、“化ける女優”という称号だけでなく、“お化け女優”と言われるようになっていた。
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