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3. キャスティング
「え? なんですって?」
『天使の祈り』映画化のプロデューサー、田代との打ち合わせの席だった。田代の言葉に今日子は驚いた。
「海藤一馬を将校役に使うなら、ヒロイン音女の二十代は同じ事務所の森乃揚羽を使えと条件を出されました」
「森乃揚羽? 誰なの?」
「今、海藤の事務所が売り出し中の女優だ」
同席していたマネージャーの市村が、タブレットで写真を見せる。
可愛いが、どこにでもいるアイドルという感じの子だった。
「演技はできるの?」
「地下アイドルからデビューした子で、歌とダンスはいけるが、演技経験はほとんどないようだ」
市村が答える。
「は? そんな子使えるわけないでしょ。第一、音女役を私が譲るとでも思うの?」
今日子は語気を荒げた。
「しかし、今日子君」
田代が宥めるように言った。
「君ももうすぐ四十だ。いつまでも十代、二十代の役を演じられるわけではない。舞台はまだ化粧で誤魔化せるが、これは映画だ。今の高性能のカメラでアップにした時、やはり老いは隠せないだろう」
「あら、田代さんまでそんなこと言うの?」
今日子は憤慨する。
二階堂孝嗣の盟友と称するこの男は、これまで散々今日子の舞台や映画のプロデューサーとして甘い汁を吸ってきた。裏切られた気がした。
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