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1. 久遠今日子
「久遠今日子と海藤一馬が熱愛?」
「ああ。今、最上階の久遠の部屋で密会中だ」
東京湾岸のタワーマンション。その駐車場の出入りが見渡せる自動販売機の影で、週刊誌の記者とカメラマンが見張っていた。
「久遠今日子は今年三十七、一方の海藤はまだ二十そこそこだぞ。その二人がまさか」
「今度、久遠主演の『天使の祈り』が映画化され、海藤が相手役に抜擢されるって噂だ。いつも若手と共演する前には味見するのが久遠だ。若い男のエキスを吸い取って若返えるんだろう」
下卑た笑いが起きる。
「化け物だな」
二人がそんな話をしていると、がさっと背後で音がした。
「うわっ! なんだ?」
驚いて振り向くと、植え込みから一匹の黒猫が出て来て、「にゃあ」と鳴いた。
「猫か」
ほっとした声で記者は言った。
「また会えますね」
噂の張本人、海藤一馬がサングラスをかけた久遠今日子に熱く囁いていた。今日子の部屋から地下へと降りるエレベーターの中でのことだ。
「そうね。次は顔合わせで会いましょう」
「いや、その前にプライベートで」
言いかけた海藤の唇を、今日子は人差し指で塞いだ。
「今は映画のことだけ考えて、坊や」
今日子が妖艶に微笑むと、海藤は素直に肯く。
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