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「え。なんでそう思うの」 「昨日、旦那さんとのケンカの声が聞こえちゃって。おれでよければなんですけど」  なんと。  渡りに船とはこのこと。  親切にしていたら、近所の知人が棒に化けたじゃないか。  私も、親切な知人から客に化けよう。  化けた後はもとに戻ればいい。それだけだ。  私は大喜びで、ワタルくんを部屋に招き入れた。 「オッケーオッケー。ちゃんとお金払うからね」 「あ、あの、でも」 「うん?」 「挿入はしませんからね」  うるせえ。  黙れ。  棒が。 「私に椅子で寝ろってのか!」 「なんだか分かりませんが、それだけはだめです。あなたにはお世話になったので」  その後、力ずくでなんとかしようとしたけれど、結局挿入はされなかった。  それでもなんかすごくて、それなりに私は満足した。  あくまでそれなりで、完全には満足しきれていないものの、まあいいかというくらいのところまでは持っていかれた。あくまでそれなりに。  そうか、この微妙な飢餓感がリピーターを作るわけだな。きっとこの構造は男の風俗でも同じなんだろう。  私はワタルくんを送り出すと、スマホで「新しいタブを開く」で六十個ほど開いていた女性用風俗のサイトを一つずつ閉じていった。  それから、私の夫が私に挿入することはなかった。  夫は家の外で私の知らない女に棒を挿入し、それをきっかけにして、私と夫は別れた。  聞いた話では、夫はその後別にその女とくっついたわけではなく、えらく孤独で不幸で残念な感じになったらしい。  私は少し後に、ワタルくんと再婚した。  近所の男の子は、棒から、配偶者に化けてしまった。  人生、なにが起きるか分からないものだ。  ワタルくんはまだ女性用風俗の仕事を続けている。なかなかの人気者のようで、ほぼ毎日仕事に出かけていく。  今日も、どこかで彼は棒に化けている。そして女を喜ばせている。  なかなかやるなあ、と思う。   終
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