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店内はちょうど昼前で混んでいて、楽しそうなカップルでいっぱいだった。
「どうした? 元気がないね」
「少し疲れちゃって」
「仕事? 入ったばかりで、重要な仕事任されたらプレッシャーだよな。体調も崩したし少しセーブしないと」
「そうね」
女性と親密な様子の達也の写真が頭をかすめる。浮気だとかそういうことは達也にはないだろうとなぜだか信じていた。その信頼が今揺らいでいる。
──ちゃんと話さなきゃ。
嘘偽りのない関係でいたい。
自分や達也の立場では、あまりに多くの利害が絡みすぎている。だからこそ互いの信頼を一番大切にしたかった。
緊張と不安で頭がクラクラしてきた。問い詰めて、NOと言ってもらえたら安心するだろうか。
「実は最近変な手紙が来て……」
「手紙?」
「ええ。匿名の」
「怪文書か。政治家は敵が多いから、気にすることないよ。世の中思ったより暇を持て余して悪意を人にぶつける奴が多いんだ」
「……あなたの恋人だったって人から妊娠してるって手紙が来たの」
勇気を振り絞り、声を出す。否定してほしい一心で。そう言うと達也は一瞬固まった。
「……そうか。手紙はどこに?」
「もう捨てた」
すみれの言葉に、達也は眉をぴくりと動かしてから、笑った。
「それでいいよ。下らないことに時間を使う必要なんてない」
──下らない?
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