疑心暗鬼

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「それだって生まれて検査しなければわからないけどね。僕は反対したんだよ。けど、無理やりどうにかするってことはできないだろう。嫌な思いをさせて悪かった。本当に僕の子なら戸籍上は無関係にするよ。そういう約束で多めの金銭を払うつもり」  少なくとも身に覚えはあるということなのだろう。 「もういい。聞きたくない」  戸籍がなんだというのか。自分の子に対してあまりの言い草だ。自分は子供など欲しくなかったから責任はないとでも言いたいのだろうか。  心の底から怒りが湧いてくる。  ちょうどウェイターが料理を運んできたが、耐えきれず席を立った。店を出ようとすると達也が追いかけてくる。 「待てよ。すみれ。別れるって言うのか」  腕をつかまれる。 「黙って結婚しろって言うの」  心が虚ろだった。悲しみすらも感じないほど。 「もう僕たち二人の問題じゃないんだ。わかるだろう? 婚約パーティーだけで何人の財政界の大物が来た?」 「私はそんな話をしてるんじゃないの」  人間だから、過ちを犯すこともあるだろう。けれど、人間の真価はそれに対してどう向き合うかどうかで決まると思う。  自分の血をわけた子が生まれることを隠し、お金さえ払えばもう関係ないと言う。  達也がまるで知らない人になってしまったように思えて受け入れられない。 「父に話すわ」 「君のお父さんなら知ってるよ。うちの親もね」
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