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プロローグ
──好きになったのは、決して結ばれてはいけない人だった。
ぐらり。
世界が歪み、地が揺らいだ。倒れこみそうになったすみれを後ろから男が抱き留める。
「もう忘れろ。忘れろよ」
息もできないくらいに抱きすくめられ、蓮の広い背に手を回した。
これ以上ないほど強く抱きあっていると、満たされそうな気持ちと飢餓感みたいなものが同時に湧き上がってきて、自分でもそれに戸惑う。わかっているのは、もう後戻りできないほどに彼に惹かれているという事実だけだった。
蓮に縋り付いていないと、自分というものがバラバラに砕けてなくなってしまう気がして、すみれは無意識に片桐の背にしがみついた
──これだ。私が欲しかったただ一つのものは。
おそらくずっと前から片桐に惹かれていた。でも好きになっても報われないのだと、自分を抑えていた。
もう自分に嘘はつけない。思いが溢れる。
「私、あなたが好きみたい」
ぐっと顔が近づき、ふわりと唇が重なる。何度か角度を変えるうちに、互いの熱が高まっていくのがわかる。
「もうなにも考えたくない」
「それでいい」
蓮の抱きしめる力がぐっと強くなった。
いつかこうなることは、心のどこかで予感していた気がする。いいことだろうと悪いことであろうと、望もうと望むまいと、すみれにとって避けられない運命のように思われた。
柔らかく何度も重なった唇が、触れた部分から熱を帯びてくる。冷え切った体が震える。
その意味を問おうと唇を開いた瞬間、再び唇が重なった。今度は深く激しく。
「んっ」
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