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「ここ、でいいんだよな……?」  窓を少し開けてトラックに乗ったまま辺りを窺う。  聞こえるのはトラックのエンジン音と風で鳴る微かな虎落笛(もがりぶえ)のみ。  幽霊など信じていない江藤だったが、人の気配が一切しない集落は異様に感じた。  夜の山はそもそも不気味なものだ、と強がって自分に言い聞かせた。  さっさと仕事を済ませようとキャビンの室内灯を点けて住宅地図を確認する。  たとえ人がいなくても不在票を投函しなくてはならない。  事務所でのやり取りで苛立っていたせいで、ろくに確認せず出て来たのは失敗したと今更後悔した。  地図を指差して一軒一軒番地を確認しながら探す。細かい数字を見るのは老眼鏡なしでは辛かったが目を細めてなんとか探し当てた。  そこは集落で一番奥の寺だった。寺の名前は字が細かすぎて見えなかったが、場所さえ分かれば問題ない。  それらしき方向を見ようと地図から顔を上げたその時、視界の端を何かが横切った。 「ひっ」  不意の出来事に、思わず情けない声を上げた江藤の顔が引きつる。  しかしそれが恥ずかしかったのか、誤魔化すように「なんだよ、ちくしょう!」と声を張り上げると、エンジンも切らずトラックから飛び降りた。  ここから先は道が細く、トラックのまま寺まで行けそうもない。  大股開きで荷台へ回り込み、観音扉を開けて小包を掴むと乱暴に閉めた。  激しい金属音が闇に包まれた集落に響き渡る。  小包を小脇に抱えた江藤は、改めて集落を見渡した。
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