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「チッ」  あからさまに落胆して舌打ちをする江藤。  くだらなくてつまらない仕事での密かな楽しみが不発に終わったからだ。  大体が野良猫か狸、たまに慢心した烏。狐や猿は聡くすぐ逃げる。  ロードキルは認められている。緊急回避して事故を起こす方が問題だ。  だから轢いてもいい。  第一、道端に転がっている死骸、それが故意か事故かなんて誰にも判らないし気に止める事もない。    完全にゲーム感覚。そこに罪の意識は欠片もなかった。  下卑た表情を浮かべつつ獲物を物色しながら走るが、早々現れるものでもなく本格的な登り道になる頃には、江藤のトラックだけになっていた。  しばらく登り、そこからさらに脇道に入ると街灯は完全になくなった。  ヘッドライトだけが夜道を照らす。  脇道は鬱蒼とした山の斜面を切土した山道で、片側が崖なのにガードレールはなく、対向車と離合出来る幅もなかった。 「なんだよここ、限界集落みたいなとこに住むなよな、面倒くせえ。配達不可にすりゃいいんだよ、こんなとこ」  勝手な言い草だったが、これを門川と話すネタに出来るな、と江藤は考え多少溜飲が下がった。  山道は道も悪く、落ち葉や小さい落石が転がっていたが、少し気分が良くなった江藤は気にする事もなく、落ち葉の吹き溜まりをタイヤで蹴散らしつつ順調に山道を登る。幸い対向車もなかった。  かれこれ三十分は走っただろうか、ようやく集落にたどり着いた。はずだった。  そこは街灯はおろか、家の灯りすら点っておらず、闇に包まれていた。  狭い谷間に生えるように、まばらに建っている古そうな民家が、月明かりでかろうじて見てとれた。
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