4.マシロの正体

2/3
341人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 広い座敷に端然と座す常磐と控えるハク。その前にずらりと体格のいい人々が向かい合って、畳に頭をこすりつけている。常磐は普段柔和で美しい姿をしているが、今日はまるで氷柱のように鋭い冷気を放っていた。 「躾のなっていない真神(まかみ)の子など、駄犬と変わりないわ」  常磐の低い声に、空気が一気に緊張を孕む。思わず縁側から声を掛けてしまった。 「あ、あの……」 「……恭弥様っ」  マシロを抱えたコウが真っ青な顔をしているが、それどころではない。 「あの、マシロの一族の方ですか?」  ざっと振り返った者たちが、ぎょっとして俺を見た。何だろうと思ったが、腰の痛みを耐えて近づいていく。 「すみません。マシロを拾ったのは俺です。皆さんが迎えに来てくださってよかった」  マシロがとん、と畳に飛び降りて俺にすり寄ろうとする。  出迎えの中の一番上だと思われる人が、すごい勢いで走ってきた。まるで俺から守るようにマシロを抱きかかえる。 「……此度は誠に有難き次第にございます。我が君をお救いくださった御恩、決して忘れません」 「いいんです。……マシロ、よかったな」  きゅううん、きゅうんと鳴くマシロに、何か言い聞かせながら、一族の人々は俺に深く礼をした。  ちらりと常磐を見ると、面白くもなさそうに、こちらを見ている。  最後にマシロをもう一度抱っこしたいと言うと、厳しい顔できっぱり断られた。代わりに何かあったら、「マシロ」と一言、名を呼ぶように言われた。名付けを行った者との間には縁が結ばれる。一族総出で助けに来てくれるらしい。 「さて、挨拶がすんだなら、これでお帰り願おう」  そのまま居たら塩でも撒きかねない常磐の言葉に、マシロを大事に腕に抱えた人々が立ち上がった。  空は見事に晴れ渡っている。見送るために、真っ赤な鳥居の前に立つ。  マシロとその一族は、もう一度俺と常磐に深々と礼をした。ひらりと空に舞い上がると、みるみる青空の中で姿を変える。見事な体格の光り輝く狼たちが、マシロをしっかりと取り囲むようにして空を駆けていく。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!