4.マシロの正体

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4.マシロの正体

 いつ寝たのか、どれだけ交わったのかわからない。目を開けた時には、辺りが明るくなっていた。 「恭弥様。お目覚めですか?」 「……コウ。常磐は?」 「ただ今、来客中です」 「……お客さん」  ぼうっとしたまま体を起こそうとすると、あちこちが痛い。すぐに、コウが体を支えてくれる。体には新しい浴衣が着せられて、布団には乱れた跡すらない。常磐の力なのか、御使い狐たちが替えてくれたのか。 「まったく、常磐様にも困ったものです。好き放題なさって! 何の為に薬酒をご用意したのか」 「薬酒?」 「昨日お召し上がりになった品です。神と人では、器が全く違います。少しでも恭弥様のお体を楽にするはずでしたのに」 「う、うん……」  コウは頬を膨らませて怒っている。でも、俺は昨夜のことがバレバレなんだと思うと、それどころじゃない。今更ながら、恥ずかしさでいっぱいになる。  タタタッ……と、何かが縁側を走る音がした。あれっと思った時には、縁側から子犬が顔を覗かせている。 「マシロ?」 「あっ! いけませんよ。勝手にお部屋に入っては」  マシロは俺を見ると尻尾を振り、喜び勇んで丸い瞳を輝かせた。  布団の中からおいでおいでと手招きすると、びくりと体を震わせ、きゅうんと鳴いた。部屋の入り口で立ち止まっている。 (どうしたんだろう?)  コウが立ち上がり、縁側まで歩いていく。 「……可哀想だとは思いますけどね。相手が悪かったんですよ。ここはあきらめて、大人しく帰りましょう」  そう言いながら、コウはマシロを抱き上げた。 「帰る? ちょっと待って! その子、家が見つかったのか?」 「はい、ただいま常磐様が迎えの一行のお相手をしておいでです。少々、揉めておりますけれど」 「……なんで?」 (どうして、揉めるんだ?) 「我が君をお助けくださったこと、誠に感謝に堪えません。つきましては救い主の御方様に一言御礼申し上げたく……」 「いらぬ、と先刻から何度も言っているだろう」 「恐れながら、直接御礼申し上げるよう主命をいただいております」 「其方らの決め事なぞ、こちらの知ったことではないわ。さっさとあの子犬を連れ帰り、二度と勝手に抜け出さぬよう躾け直せ!」 「お言葉を返すようですが、我が君をただの犬などと一緒にされますのは誠に遺憾の限り……」  俺はマシロを抱いたコウと一緒に、こっそり座敷に様子を見に来た。確かに揉めている。
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