359人が本棚に入れています
本棚に追加
「……犬じゃ、なかった」
呆然として見上げる俺に、常磐が眉を顰めた。
「ふん、あんなもの、子犬でいいわ」
「常磐って結構、意地悪だよね」
俺が呟くと、コウが脇から囁いた。
「意地悪どころじゃないですよ。恭弥様にあんなにご自分の匂いをつけまくって。先方もぎょっとしてたじゃないですか。脅してるのと同じですよ」
「あの駄犬が勝手に、恭弥に匂い付けをしようとしたんだぞ! ちびのくせに! 恭弥が家に返してやりたいと言わなければ、真神の者だろうと黄泉に送っていたわ!」
「匂い付け……?」
コウがこっそり教えてくれた。自分の気に入った人間に、真神の一族は匂い付けをすることがあるのだと。
「抱っこした時に、さんざん舐められたでしょう? あれです」
常磐に聞こえないように、コウの声が小さくなる。
(マシロがぺろぺろ舐めてきたあれが? それに……)
「まかみ?」
「狼神のことです。古からの力ある神で、あれは末の御子だとか。成長されて結界を抜け出すことが多くなったんだそうです」
「神様の子も、やんちゃなんだな」
俺の顔を見ながら、御使い狐のコウとハクは揃って頷いた。
「幼くても神は神です。恭弥様は、確かに神々に好かれるというか、危なっかしいところがおありです。気を付けませんと」
「……そんなことを言われても、人じゃない者のことは、詳しくないんだよ」
隣に立つ常磐を見ると、雲一つなくなった空を見ても眉を顰めたままだ。
俺がそっと指を絡めると、ようやく眉が下がった。体を屈め、いきなり口づけられて舌が入ってくる。
「んっ……んんっ」
息苦しさに、どんどん、と胸を叩くとようやく放してもらえた。輝く金色の瞳が真剣に俺を見る。
「やっぱり、もう少し匂いを付けておくか」
「……ば、ばかっ!」
俺が叫ぶと、とびっきり優しい笑顔が浮かぶ。ひょいと俺を抱え上げて微笑む顔は、晴れ渡った空よりも綺麗だ。
大好き、と呟いたら、私も、と囁かれた。
🦊おしまい👦
🌟明日は、おまけの小話になります🌟
最初のコメントを投稿しよう!