4.マシロの正体

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「……犬じゃ、なかった」  呆然として見上げる俺に、常磐が眉を顰めた。 「ふん、あんなもの、子犬でいいわ」 「常磐って結構、意地悪だよね」  俺が呟くと、コウが脇から囁いた。 「意地悪どころじゃないですよ。恭弥様にあんなにご自分の匂いをつけまくって。先方もぎょっとしてたじゃないですか。脅してるのと同じですよ」 「あの駄犬が勝手に、恭弥に匂い付けをしようとしたんだぞ! ちびのくせに! 恭弥が家に返してやりたいと言わなければ、真神の者だろうと黄泉に送っていたわ!」 「匂い付け……?」  コウがこっそり教えてくれた。自分の気に入った人間に、真神の一族は匂い付けをすることがあるのだと。 「抱っこした時に、さんざん舐められたでしょう? あれです」  常磐に聞こえないように、コウの声が小さくなる。 (マシロがぺろぺろ舐めてきたあれが? それに……) 「まかみ?」 「狼神のことです。古からの力ある神で、あれは末の御子だとか。成長されて結界を抜け出すことが多くなったんだそうです」 「神様の子も、やんちゃなんだな」  俺の顔を見ながら、御使い狐のコウとハクは揃って頷いた。 「幼くても神は神です。恭弥様は、確かに神々に好かれるというか、危なっかしいところがおありです。気を付けませんと」 「……そんなことを言われても、人じゃない者のことは、詳しくないんだよ」  隣に立つ常磐を見ると、雲一つなくなった空を見ても眉を顰めたままだ。  俺がそっと指を絡めると、ようやく眉が下がった。体を屈め、いきなり口づけられて舌が入ってくる。 「んっ……んんっ」  息苦しさに、どんどん、と胸を叩くとようやく放してもらえた。輝く金色の瞳が真剣に俺を見る。 「やっぱり、もう少し匂いを付けておくか」 「……ば、ばかっ!」  俺が叫ぶと、とびっきり優しい笑顔が浮かぶ。ひょいと俺を抱え上げて微笑む顔は、晴れ渡った空よりも綺麗だ。  大好き、と呟いたら、私も、と囁かれた。         🦊おしまい👦 🌟明日は、おまけの小話になります🌟
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