2.わかってない

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2.わかってない

「知っている」 「……へ?」 「お前が朝、ここに向かう途中に草むらで拾っただろう。見慣れぬ気配を感じてちょうど様子を見ていたところだった」 「み、見てたなら、何で……」  常磐は俺の質問には答えず、ふいっと顔を背けた。 「……言っておくが、それは弱くなどないぞ。人には本来の姿は見えぬだろうが、子犬ではない」 「え、だって、あんなに弱って……」 「それは天に住まう者だ。地上に落ちて、天の気以外のものをいきなり体に吸い込んだから弱ったのだろう。この神域までたどり着こうとしたところで力尽きた。そこに、たまたまお前が通りかかったんだ」 「……ばあちゃんも言ってた。えらいものだ、って」  鳴き声が聞こえなくなったと思えば、境内でマシロは二匹の御使い狐と遊んでいた。見事な尾を持った白狐たちは、常磐の眷属だ。二匹に追いかけっこをしてもらって、楽しそうに走り回っている。 「じゃあ、これからあの子の眷属が迎えに来るのか?」 「たぶんな。きっと探し回っていることだろう。一応あちこちに使いを出した。待っていれば何か知らせが入る。ここにいれば神気を吸って、あれも回復するはずだ」  よかった、と思うと気が抜けて座り込んでしまった。同時に胸の中がもやもやする。 (……だったら、常磐がさっさとマシロを助ければよかったのに。俺はこんなに怒られなくてすんだんじゃないか)  むう、と口を尖らせながら、足元に生えた草をプチプチと千切った。頭の上の陽射しが陰って、すぐ近くに常磐がやってくる。 「神は余程のことがない限り、互いに関わりあわぬものだ」  俺は黙って手元の草を抜き続けた。 「近くに眷属がいれば放っておいても迎えにやってくるし、自力で天に戻る者もいる」 「じゃあ、俺のしたことは余計なことだったのか」 「そんなことはない」 「時間に遅れたこと、ずっと怒ってたくせに」 「……怒るに決まってるだろう」  俺は、しゅんとして足元を見た。やっぱり怒ってるんだ。胸がぐっと詰まって、何と言っていいのかわからない。陽射しに照らされて熱くなった頭に、常磐の言葉だけが響く。 「お前は、一つのことに夢中になると、すぐに私のことを忘れる」 「……忘れてなんか」  いない、と言おうとしたのに、すぐに言葉が出ない。 「私のところに来るのに、平気で他の者の匂いを体に付けてくる」 「……?」 「お前は本当に、何もわかっていない」  言われている意味が分からなくて顔をあげた。階段を降りてきた男は、むっとしたまま俺に手を差し出す。 「……手が汚れてるからだめだ。常磐が汚れる」  そう言って首を振った途端に、体がふわりと浮き上がった。鼻先に仄かに白檀が香り、俺は常磐の腕の中に抱きしめられていた。
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