犯人は私です

5/6
144人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
「あ、国王には反対されるかもしれないな。その、アイちゃんは異界人だから、初めての相手を捜せと言われていたんだよな」 「ウィルは、結婚するにも国王の許可が必要なの?」  ずっとごまかしていた彼の身分をここで明らかにしてもらおう。 「あ、あぁ。まぁ、そうだな。国王は伯父だからな。俺の父親が、国王の弟だと言えばわかりやすいか?」  なんとなく予想していたけど、予想通りの答えをありがとうという感じだ。 「そうなのね」 「だから、俺の結婚は国王の許可が必要だし。多分、アイちゃんもそうだろう」  自由に恋愛結婚できないのは、辛いかもしれない。 「国のことを考えると、アイちゃんはその相手と結婚するのがいいんだろうな。だけど、俺としては、知らない男にアイちゃんをとられるのが嫌だ。それをずっと考えていた」 「あー、うん。そうだねー」  わざとらしい返事だったかもしれない。 「アンドレイ殿が言うには、アイちゃんの相手は、アイちゃん以外には反応しなくなるわけだろ? 本人が困ってなければいいんじゃないかと思うんだ。俺だって勃たなかったが、そんなに不便じゃなかったし」 「あー、うん。そうだねー」  これはそろそろウィルフォードに正直に話すべきだろうか。 「だから、国王にはきっちりとアイちゃんと結婚したい旨を伝えて、相手の男には正直に話してあきらめてもらおうかと」 「あー、うん。そうだねー」 「もしかしてアイちゃんは、やっぱりそのときの男のほうがいいのか?」 「え?」 「さっきから、上の空だから。もしかして、俺じゃやっぱりダメなのか?」 「へ?」  違う違うと、勢いよく頭を横に振った。ウィルフォードは今にも泣き出しそうなほど、目尻を下げている。 「あー、うー」  言わなきゃいけないと思って口を開くけど、それがなかなか言葉に出てこない。 「アイちゃん。はっきり言ってくれ」  ウィルフォードが私の右手をがっしりと両手で握りしめた。 「ウィル、ごめんなさい」  私が勢いよく謝ったからか、彼はまた困ったように眉をハの字にした。 「あの、あの、あのときのあのあれは、私なの」  あのあのが多くて、ウィルフォードも理解できていないようで、ハの字の眉の間に濁点ができた。 「ええと。二年くらい前のあの娼館でウィルフォードの相手が私」 「いや。あのときの女性は、髪の色が金髪だったし、長かった。あのあと、アイちゃんと出会ったけど、俺が少年と間違えるくらい、髪が短かったじゃないか」 「そうそう、そうなんだけど。あのときは、オーナーがカツラを準備してくれて」  握られている手に、少しだけ力が込められた。彼にとっては無意識なのだろう。 「だから、ごめん。ウィルフォードを不能にしたのは私です」  ささっと、彼の顔から血の気が引いた。 「あのときの娼婦がアイちゃん?」 「そう。ずっと黙っててごめん。ウィルの話を聞いて、私のせいで女性恐怖症になったんだなって思った。あのときの私は、初めてだからってオーナーから薬をもらって」 「初めて? 初めてだったのか?」 「え? あ。うん。だから、痛くないようにってお薬を」  それでも信じられないと、ウィルフォードは首を横に振る。 「ごめん。ウィルが苦しんでたのに、言えなかった。言ったら嫌われて、追い出されると思ったから」  握られていた右手を引っ張られた。そのままバランスを失って、彼に身体を預ける。すっぽりと彼の腕の中に包まれていた。  これは、いつものように私に甘えて抱きしめていた行為とは違う。甘える仕草ではない。 「ウィル。ごめんなさい」
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!