犯人は私です

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 ウィルフォードの身体が大きく震える。それを見て、私は取返しのできない言葉を口にしてしまったと知った。 「あ、ごめん。好きって、その……あれよ。お肉が好きみたいな。そんな感じ。だって、嫌いだったらウィルのお世話なんでできないじゃない?」  もう一度、彼の身体はぷるっと震える。そして、ゆっくりと顔をあげる。その顔はいつにもなく真面目だった。 「アイリは俺のことが好きなのか?」  このように真面目に聞かれたら、どう答えたらいいかがわからない。  愛してるの好きなのか、友達感覚の好きなのか。 「そ、そうね……好きよ……」 「俺と……結婚してもいいと思っているのか?」  やっぱり、そっちの好きだったか。 「それは」  一生、彼の側にいられるのであれば、それを願いたい。だけど、それを願っていいのかどうかがわからない。 「俺は、アイリとであれば、結婚してもいいと思っている」  妥協したような言い方だけど、首元まで真っ赤になっていたら、それが照れ隠しなのだろうとはわかるのだけど。 「ウィルは、私のことが好きなの?」  もう一度尋ねた。 「正直なことを言うと、好きかどうかがよくわからない。だけど、アイちゃんがいなくなることを考えたら、それだけで嫌だった。他のところに行ってほしくない。俺の側にずっといてほしい」 「それって、使用人としてじゃない? ほら、私がいなくなったら生活できなくなるでしょ?」  わざといじわるな言い方をした。 「初めは、そうかと思った。だけど、違う。俺は、アイリと家庭を築きたいんだ。俺が帰ってきたら、おかえりって言ってほしい。一生、ずっと。そして、いつか、俺の不能が治ったら、子供と一緒におかえりと言ってほしい。それを考えていた」  それって、私を好きだということでいいんだよね? 自惚れじゃないよね? と、自分に言い聞かせる。  ウィルフォードがそこまで言ったのであれば、私も腹を括ろう。 「わかった! ウィル。私をウィルのお嫁さんにしてください」 「なっ」  すでに真っ赤だった顔が、より一層紅に染まる。そろそろ沸騰するんじゃなかろうかと、心配になるくらいに。 「だって、そういうことでしょう?」  ウィルフォードは、口をパクパクと金魚すくいの金魚のように開けている。 「そういうこと……になるのか?」 「もう、ウィル。認めなさい。あなたは私が好きなのよ」 「なっ」  しゅるるるると風船がしぼむかのように、ウィルフォードが背中を丸めた。こんなんで、本当に師団長を務められているのか心配になるけれど、二年前、彼と出会ったときはきりっとしていた。  きっとこんな姿を見せるのも、私の前だけなのだろうと思うと、愛おしさすら感じる。 「あ……ウィル。どうしたの?」  背中を丸めたまま、苦しそうにお腹を押さえている。もしかして、ストレスから胃がやられてしまったのだろうか。 「アイちゃん……」  困ったように私を見上げてくる。 「……反応してる」 「は?」  何が反応しているのだろうか? 彼の視線の先を辿る。ナニを辛そうに押さえている。 「もしかして、不能が治った?」 「そうかもしれない。アイちゃんのおかげだ。ありがとう!」  いや、ありがとうと言われても。  そうなってしまった原因は私にあるわけで、そして反応し始めた理由もアンドレイの話を聞いていたから、なんとなく理由はわかるけど。  なぜこのタイミングなのかはわからない。 「よし、アイちゃん。結婚しよう。まずは父上に報告をして、あとは国王に」  そこまで口にして、ウィルフォードはまた顔を曇らせた。
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