甘えん坊のガッチリむちむち騎士

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甘えん坊のガッチリむちむち騎士

 窓を開けるとからりと乾いた空気が室内に入り込む。 「おはよう、ウィル。朝よ、早く起きなさい」  肩まですっぽりと掛布をかけているのは、この家の主人のウィルフォード・オルガー。歳は三十になるところの男盛り。だからこの部屋は、少し雄雄しいにおいがする。いや、むしろお酒くさい。そのため、彼を起こすついでに部屋の窓を開け、爽やかな空気を取り込むのも私の役目である。 「ん、もう朝か」  顎には無精髭が生えているし、いつもはさらりと爽やかに流れる金色の髪もボサボサだった。 「朝です。さっさと起きなさい。遅刻するでしょ? みんなを取りまとめる師団長様が遅刻だなんて、示しがつかない」  彼の掛布を剥ぎ取ると、ふっくらとしている大胸筋が現れた。ウィルフォードは胸板が厚い。そして鍛えられた腹筋は綺麗に割れている。  王国騎士団に所属し、それの第五師団長を務めているのが彼。今は寝ぼけているおっさんに見えるけれど、身だしなみを整えて騎士服に身を包むと、その姿に心臓はドキリと跳ねる。  野性味の溢れる顔立ちにさらりと揺れる金色の髪、そして澄んだ湖のようなセルリアンブルーの瞳が相手を射抜く。  掛布を剥ぎ取ったら、案の定、ウィルフォードは上半身には何も着ていなかった。彼の立派な大胸筋を、朝から拝んでしまった。  かろうじて、下の下着はつけているけれども、本来であれば元気なはずの彼に元気がない。 「ほら。さっさとシャワー浴びて、目を覚ます」  彼をまくしたてるが、寝ぼけているウィルフォードは「ん、んっ」と可愛くない声をあげて、ごろごろし始めた。 「もうっ」  思いきってシーツも引きはがす。その反動でごろんごろんと転がったウィルフォードは、ベッドから落ちた。  ドシンッ――。 「いてててて。相変わらず乱暴だな、アイちゃんは」  尾てい骨を押さえながら、やっとウィルフォードが立ち上がった。まさしくパンイチの格好である。 「ウィルが起きないからでしょう? これで起きなかったら、水をぶっかけようかと思ってた。そうされなかっただけ、マシだと思いなさいよ」  剥ぎ取ったシーツをクルッと丸めて、両腕の中に閉じ込めた。やっぱり、酒くさいし男くさい。 「アイちゃん」  ウィルフォードが両腕を広げて、こいこいとアピールしている。私がこの行為に弱いことを、彼は知っている。  渋々と彼の傍に近づくと、大きな身体に覆われた。 「アイちゃんは今日もいい匂いがする」  耳元でささやかれ、ふるりと全身に恥ずかしさと嬉しさが走る。だが彼がこうやって私を求めるときは、嫌なことがあった証拠でもある。 「それで、昨日は何したの? 職場でお嬢様たちにいじめられたの?」  こんながっちがちのムチムチ強面の騎士団師団長のウィルフォードなのに、女性が苦手であるというから驚いてしまう。いや、胸が痛む。  女性を近づけない女性嫌いとは異なる。女性がそばに寄るだけで、動悸、息切れ、吐き気が起こるらしい。知らない人から見たら、何かの病気ではないかと思えるような症状だ。いや、実際にウィルフォードは病気なのだ。女性恐怖症という病気。  しかもウィルフォードに好意を持つ女性であればあるほど、強く反応してしまうというのも驚きである。普通の女性であれば嫌悪感程度。好意を持たれれば、その気持ちの強さによって症状がかわるとのこと。嘔吐の症状までいくと、相手の女性はウィルフォードとヤる気くらいの勢いらしい。  つまり、彼は自分を好いている女性を本能的に悟るのだ。
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