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「おいおい、まただよ。」 ガヤガヤガヤガヤ。 「いい加減にして欲しいってもんだよ。」 「ほんとに、ほんとに。」 2羽の雀は口を揃える。 今夜もここ、大雀(おおすずめ)神社の境内は騒がしい。 「オイラの方が上手に化けられる!やっぱり 変化(へんげ)は狸様の十八番ってもんよ!」 「そうだー。」「よっ、日本一!」 一匹の狸の背には大勢の同種のガヤが声援をあげる。 「あらあら、東の狸はどこに目が付いているのやら、どう見てもワタクシ。変化(へんげ)は我々、狐の右に出る者はおりませんねぇ。」 「そうだー。」「その通りっ!」 一匹の狐の背には大勢の同種のガヤが声援をあげている。 そう。 ここ大雀神社の境内では毎夜毎夜、【東の山の狸】と【西の山の狐】が、甲乙つけがたい化け合戦を繰り広げている。 これが俗に言う、【狸狐(りこ)の背くらべ】である。 もちろんそんな言葉は無い。 しかし実際、大雀神社の神木を寝蔵にしている、雀たちにしていればそれはそれはいい迷惑だ。 騒ぎのせいか、神社のシンボルとして祀られた雀の置物もいつの間にか無くなってしまっている。 毎夜、騒がしいったらありゃあしない。 自分たちより身体の大きな彼らに、誰も強く言う事が出来ず雀たちは毎夜、頭を悩まされていた。 出来る事と言ったら自分たちと同じ名前を冠した神社にお願いするくらいだ。実に滑稽な絵面に見える。 そして今夜も決着のつかない、狸と狐の化け合戦が始まったのだ。 当然、お互いがお互いの種族のみを応援し票を入れるので決着もつかなければ前進も好転もしないただの泥試合。 ただ目を見張るモノと言ったら、それもやはり化かし合い。変化した姿ときたら狸も狐も一級品で本物と区別がつかない程だ。 「狸の変化がいちばんっ!」 「そうだー!そうだー!」「本物よりも本物だ!」 「狐の変化は日本一!」 「まさにその通り!」「こりゃ見分けがつかん!」 もうたぶん。一生終わらない。 雀たちは、もうこの大雀神社を離れ新しく寝蔵を探さなければならないのかと呆れ、諦めかけていたその時である。 一羽の雀が、睨み合う狸と狐の間に割って入って行った。
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