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狸、狐。
両者の注目が一羽の雀に向けられ、辺りは一瞬で静まり返った。
今まで傍観するだけだった雀の突然の乱入に警戒が強まりピリピリとした空気へと変わる。
そして、雀は口を開くとこう言った。
「いや〜。それにしても凄い。本物と見分けがつかない。本当に甲乙つけがたいとはコレ極めり。まさに、世紀の化かし合いとはこの事ですねぇ。いやはや、本当に凄い。」
「凄い凄い」と雀の肯定的な言葉に、敵意は無いと判断した両者は一変緊張を緩める。
「そうだろう。そうだろう。狸の変化は凄いだろう」と狸が。
「その通り。その通り。狐の変化は凄いでしょう。」と狐が。
と言うとまたも、お互い睨み合う。
すかさず雀が続けて口を開く。
「いやー。狸さんのその豪快な変化は他を圧倒する勢いがありますねえ。」
雀の絶賛に、「ええ、そうかい。」と頬を赤らめ照れる狸。
「いやー。狐さんのその華麗な変化は他を魅了して釘付けにしてしまいますねぇ。」
こちらも同様に、「あら、そうかい。」と頬を赤らめ照れる狐。
狸も狐も、まんざらじゃない反応をすると揃って誇らしげに胸を張ってみせる。
「ところでアイツは何者なんだ?」
双方のどこからか野次のような声が聞えてきた。
それを聞いた雀は、「いやはや申し遅れました。ワタシはここら界隈に巣食う雀のお茶番を担当しております、雀のスズ太と申します。以後お見知りおきを。」とぺこりと頭を下げてみせる。
「今日までの御二方の化かし合いを木陰より、勝手ながら拝見させて頂いておりました。お互いに実力は拮抗していて決着の判断は非常に至難かと思います。そこで一つご提案がございます。」
先程までのガヤガヤとした雰囲気から一変、双方ザワザワとお互いの顔を見合う。
「お茶番とやら、言ってみろ。」
ガタイの良い狸の代表が、スズ太に続きを促す。
「ありがとうございます。僭越ながら、、こほんっ。」
スズ太はぺこりと一礼し一つ咳払いをすると、その提案について語りだした。
「どちらが優れているか決着を着ける方法ですが、御二方のその素晴らしい変化を駆使して人里から食パンを一袋。どちらが先に手に入れ、ここに戻ってこれるか。なんてのは如何でしょうか。」
「食パンかい?」とスラッした狐の代表が雀に問う。
「はい。食パン一袋です。もしや御二方、食パンはご存知ありませんでしたか?」
「「もちろん知っているわっ!」」狸と狐は口を揃える。
しかし双方、人里に降りる事の危うさを知らない訳では無い。
それぞれが人間を天敵だと理解しているのだ。
雀は続ける。
「我々、動物が人里に降りる事は極めて危険と昔から山の常識です。・・・しかし、御二方の変化があれば人間など容易く欺けるでしょう。」
神社の境内は一瞬の沈黙に包まれる。
「まさか、御二方。自分の変化に自信が無いのでしょうか。いや、待てよ。しかし、さすがにこれは無理難題だったかもしれませんね。すみません。」
スズ太が自身の提案をいとも容易く撤回しようとする。
「で、出来るに決まってる!」
「な、何ら問題ありませんね!」
狸と狐は声を揃えて、その提案を乗っかってみせる。
「食パンなんて10袋でも20袋でも余裕だねっ!」
「いーや、1袋と言わず100袋でも構いやしないねっ!」
お互いに豪語する。
「おー。さすがは御二方。頼もしいお言葉です。」
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