勝負

1/2
前へ
/7ページ
次へ

勝負

「なら決まりと言う事で宜しいでしょうか。」 スズ太は念を押す様に双方に視線を送る。 「狸に二言はねぇ。」「狐に二言はありません。」 二匹は、トントン拍子に突然現れた一羽の雀の提案に乗る事になった。 「では、簡単にですがルールをご説明します。双方の代表一名が変化(へんげ)を駆使して人里より食パン一袋を持ってきて頂きます。持ってきた食パンは、ここ大雀神社の賽銭箱の上に置いてください。後日、どちらが早く食パンを持って来る事が出来たか、結果を書いた伝書を飛ばします。これで如何でしょうか。」 一通り説明を聞いていた狸が「少し良いか?、その場で結果は分かるんじゃないのか?」と。 「そうですね。狸さんの言いたい事はわかります。ですが、念のため本物の食パンかどうか調べる必要があります。だって、皆さん化けるプロではないですか。それに、結果を待つのも勝負の楽しみだとも思いませんか?」 すると、狸と狐は「ああぁ。そうか。」と。 「それでは、代表の方を決めて頂きましょう。」 スズ太は、笑顔で両の羽を合わせる。 「「そんなのは決まって(る)(ます)。」」 狸代表は、先程から先頭に立ちスズ太と話しをしていた、ガタイの良い狸。名を【ポン助】という。 狐代表も、先頭でスズ太とやり取りしていたスラッとした体躯の狐。名を【コン吉】という。 共に群れの長で、同族の中では右に出る者は居ない程の実力者だ。 「それでは役者も決まったところで、さっそく始めさせて頂いても宜しいですか?」 まるで調子良くスズ太が言うと。 「さっさと始めよう。」、「いつでもどうぞ」とポン助とコン吉は人里へ向け身を乗り出す様に身構える。 「でわでわ。僭越ながら、、。よーい、ドンッ。」 スズ太の掛け声を合図に勝負はスタートした。 代表の二匹は勢い良くガッサガッサと、人里へ向い走り出すとあっという間に姿は見えなくなってしまった。 トントン拍子に事が進んだためか、神社の境内には未だに大勢の狸と狐が成り行きを伺う様にザワザワと落ち着かない様子を見せている。すると。 パンッ。 スズ太が両羽を叩いて注目を集めた。 「御二方も行ってしまいましたし、本日のところはお開きとしましょう。後日、結果をお伝えに上がりますので後は皆さん、御二方を信じて静かに勝利を願いましょう。あっ、何でしたらここは神社です。お賽銭箱もありますから、どうです?試しに神頼みなんてのは。」 ちゃっかり賽銭をねだるようなジョークを入れつつ双方に解散を促した。 狸も狐も「いつまでもここにいても仕方がない。」 と言うと狸は東の山へ、狐は西の山へと姿を消した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加