勝負

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それぞれ人里へ降りた二匹は木の葉を1枚頭へ載せると、ボンッとたちまちに変化する。 狸のポン助は作業着を纏ったガタイの良い男性へ、狐のコン吉もまたスーツを着こなしたスラッとしたサラリーマンに見事に変化すると何食わぬ顔で人の世界へ足を踏み入れた。 怪しまれぬ様、平静を装ってはいるが内心は常にハラハラドキドキしてまるで穏やかでは無い。しかし、お互い種族の代表として負ける訳にはいかないのだ。 「「やってやるっ!(狸)(狐)には、絶対に負けないぞ!」」 一方その頃、大雀神社ではスズ太を始めとする雀たちは、久しぶりに静寂に包まれた神社でゆっくりと静かな時間を過ごした。 「狸も狐も似たモノを同士なんだ、お互いに認め合えば毎夜の化け合戦も無くなるというのに。」 「たしかに、たしかに。でも、これで決着が着くというならもう少しの辛抱ってものだ。」 こうも静かだと雑談にも花が咲く、二羽の雀のそんな立ち話を最後に皆眠りについた。 それから数日が経過したが、未だに神社にはポン助もコン吉も姿を現しては居ない。 何度か東の山から狸が。西の山から狐が途中経過を探りにスズ太の下へやってきた。 「おい、お茶番。その後はどうだ?まさか、(狸)(狐)はもう食パンを持って来たんじゃないのか?」 身構える雀たちをよそに、スズ太はやってきた狸と狐に対してひょうひょうと「自分たちの代表が信じられないのですか?信じて待つ事。今、アナタ方の我慢強さが試されている時なんです。器の大きい(狸)(狐)ならドシッと構えるものですよね。」とそれぞれにそう言うと、皆黙って山へ帰って行った。 それからまた数日が経った日の事、ついに大雀神社の賽銭箱の上に食パン一袋が置かれたのだ。 一番に気付いたのは、もちろんお茶番のスズ太で「いやはや、ご苦労様です。その様子ではかなり苦労されたと存じますが。如何でしたか?この勝負。」 「・・・・」 食パンを収めた一匹は、既に満身創痍でゲッソリとした表情をしていた。 「お茶番とやら、それで結果は・・・ヤツは俺より早く食パンを持って来たのか?どうなんだ?」 「まあまあ、そう慌てないでください。ルールは最初にご説明しました通り、後日勝敗を書いた伝書を飛ばしますので、それまでお待ちを。」 「・・・・そうかい。」 言い返す余裕すら無いのか簡単に食い下がる。 「それより、さぞかしお疲れでしょう。それに、仲間の皆さんも大変心配されております。一度群れに戻ったらどうでしょう。」 お茶番のスズ太は、あいも変わらぬ表情で言う。 「・・・そうだな。」 そう言うと一匹は、トボトボとフラつきながら自分の住む山へ向かう。 「最後まで勝負をお楽しみください。」そんなスズ太の言葉に反応する事も無く消えて行った。
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