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盛大に
そんなやり取りの翌日、続いてもう一匹が食パン一袋を咥え神社の境内にやってきた。
こちらも満身創痍。ゲッソリとフラつきながらまるで歩くのがやっとの様だ。
「ささっ。もう少しですよっ。賽銭箱に載せた時点でゴールです。さぁさぁ、頑張って頑張って。」
スズ太の声援が境内に響く。
「はい。ゴールですね。お疲れ様です。だいぶお疲れの様子ですね。如何でしたかこの勝負は?」
「・・・・俺が先か?」
「まあまあ、そう焦らないでください。ルールは最初にご説明した通り、後日勝敗をお伝えに上がります。それまで、結果を楽しみにお待ち下さいな。」
スズ太は両羽を合わせて軽くお辞儀をした。
「・・・」
先の一匹同様に、一度群れに帰るよう促すとトボトボとフラつきながら自分の住む山へと消えて行った。
これでついに勝敗を決する時が来たのだ。
神社の境内には、この勝負を見守っていた他の雀たちも一同に集まってきてスズ太の次の行動を待った。
実際、どちらが先に食パンを持って来たのかを他の雀も目撃している訳で、この結果をスズ太がどう伝えるのか皆興味があったのだ。
何とも言えぬ緊張感に、境内の雀たちはゴクリと唾を飲み込む。
「皆さん、ついに勝負はつきました。早速、結果発表!と言いたいところですが、別に急ぐ事でもありません。せっかくです、今宵もゆるりと静かな夜を堪能しようじゃありませんか。」
ズコッ。と肩透かしを食らった様に。いや、ハトが豆鉄砲でも食らった様に唖然とした空気になる。 雀なのに。
「それに、ここには食パンがなんと2袋もあります。今夜は宴です。お腹いっぱい食べて、たまには我々もドンチャン騒ぎましょう。少し早いですが祝勝会と致しましょう!」
「「えーーーーー。」」
周りの雀たちが「いや、いや、食べたらマズイでしょー。狸と狐が満身創痍で手に入れてきた食パンだぞ。勝手に食べたらそれこそ、何をされるか。しかも、その食パンは今回の勝負の要じゃないか。」
と否定的な意見が多く上がる。
「皆さんの心配する気持ちは分かります。しかし、この食パンは食べても何ら問題ありません。この食パンは今回の勝負で言うところの手段であって目的ではありませんから。それに。」
「それに?」
皆の注目は、スズ太に向けられる。
「それに、最初のルール説明で本物の食パンか確かめると公言しておりますし。」
「あぁ。」「あっ、たしかに。」「言ってた、言ってた。」「たしかに、本物か調べなきゃだ。」
「早く食べよう。」「ずっと我慢していたんだ。」
スズ太の言葉を受けると、皆は一変して食パンに群がり始めた。
「さしずめ季節柄、春のパン祭り と言ったところでしょうか。今宵は盛大に盛り上がりましょう。」
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