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今宵の大雀神社は、いつもの狸と狐のいがみ合いの騒がしさでは無く、雀たちのドンチャンドンチャンと楽しい笑い声が響いていく。
一羽の雀がスズ太に聞いた。
なぜ、二匹は食パン一袋を手に入れるだけであんなに何日も掛かり、ゲッソリとした表情をしていたのかと。
スズ太は、頬張っていた食パンをゴクリと飲み込むと「そうですね。」と答える。
「彼らの変化は素晴らしく間違いなく一級品です。ですが、姿形は似せられても人間のルールまではそう簡単に真似る事はできません。知ってますか?人間の世界では、食パンを手に入れるには【お金】というモノが必要なんですよ。たまに、人間が賽銭箱に投げ込むアレです。」
「おー。あれがお金と言うモノか。」
スズ太の説明を聞いた雀が関心する様に頷く。
「まぁ、アレですよ。彼らが出来る事は所詮、化けの皮一枚だけ。今回は文字通り、化けの皮が剥がれたと言う事です。」
雀たちのドンチャン騒ぎは深夜遅くまで続いた。
そして日が変わり、翌日。
「昨日(今日)は、お疲れ様でした。早速ですが、彼らへの伝書を飛ばしましょう。伝書はワタシの方で先に用意してありますので。」
スズ太はおもむろに、2通の伝書を取り出すと若い二羽の雀にそれぞれ手渡した。
「それでは、この伝書を彼らに渡してきてください。これで毎夜毎夜の騒がしい狸と狐の騒がしい化け合戦は無くなりますよ。」
そう伝書を託された二羽の雀は、東の山、西の山へ向かって飛び立って行った。
「しかし、本当にこんな事で狸も狐も納得するのだろうか。負けた方がカンシャクを起こしてもっと激しい喧嘩になってしまわないだろうか。」
未だ不安を抱える雀がボソボソと呟く。
「大丈夫です。きっともうあの様な事は起こりませんよ。」
そんなスズ太の言葉の通り、結果を記した伝書を飛ばしてから既に数日経過したが、あれから一度も深夜の化け合戦は行われていない。
怖いほどにピタリと行われなくなったのだ。
一生終わらないと思っていたあの争いが終わったのだ。
神社の境内は、昔の様に静かで過ごしやすい雀の居場所に戻っていた。
しかし、この状態に対して雀たちは嬉しい反面、やはり何か腑に落ちない。
たしかに狸に狐、二匹の勝負には決着が着いた。だけどこんなにあっさり片方は負けを認めるだろうか。あれだけ長い事いがみ合っていたのに・・・。
そう、雀たちはこの平穏に対して裏付けが欲しいのだ。
その疑問が解消されない内は、この平穏を素直に受け入れる事が出来ない。
「そうですね。分かりました。それでは少し種明かしを致しましょう。」
見かねたスズ太が言った。
すると、再び雀たちかスズ太を取り囲んだ。
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