茶番

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茶番

「答えは伝書です。」 伝書? 皆頭を傾げる。 「あれにワタシは何て書いたと思います?」 「そりぁ、勝ち負けを書いたって言ってたじゃないか。」皆、口を揃える。 「実はあの伝書にはこう書いてんです。」 スズ太は、自分が先に用意していた伝書の中身を皆に説明した。 それを聞いた雀たちは、「なんとっ。」「いやはやこれは。」「あらら、なるほど」と一様に驚いて見せる。 スズ太の説明によると、狸と狐に送られた伝書の中身には同じ内容が書かれていたとか。 具体的にはこうだ。 【(ポン助)(コン吉)殿、この度は勝利おめでとうございます。見事、いち早く食パンを持ち帰って来られました。厳正な確認の末、食パンも本物と確認がとれました。相手方に関してはアナタには及びませんでしたが、1日遅れの到着となりました。まさに、接戦と言ったところでしょうか。実に均衡した実力でございました。これにて、寂しいですが優劣は決しました。】 「とまぁ、こんな感じです。」 スズ太は、お互いに勝利を記した伝書を飛ばしたのだ。 「これを受け取った、二匹はとりあえず安堵するでしょう。」 説明を聞いていた雀が質問する。 「でもこれ、勝った方は真っ先に自慢しに来るんじゃないのか?どうしてどちらも来ないんだ?」 スズ太は、「はい、そう思うのも当然ですね」と質問に丁寧に答える。 「まず、彼らがいがみ合っていたのはお互いを認められていなかったからです。彼らがここに食パンを持って来た時の事は覚えてますか?」 「あ、ああ。覚えてる。二匹とも、ヘロヘロで満身創痍な表情だった。」 「そうです。それだけ、食パンを手に入れる事は容易では無かったと言う事です。何日も掛け頭を捻り、あらゆる方法を試し、何とか手に入れた食パンなんです。」 「たしかに・・・」 「しかし、その差はたった1日でした。タイミング次第では負けていたかもしれません。これではもう、相手の実力を認める他ありませんよね。」 「ああぁ。」 「で、でも。それでも、勝ったのは事実。自慢の一つでもしてきそうなものですよ。」 それでも納得のいかない者が問う。 「それに関しては思い返してみてください。勝負を始める際、彼らは食パン一袋で良いところを十でも二十でも豪語されていたではありませんか。それで終わって見れば一袋を手に入れる事で精一杯な訳ですから。あれだけ言い放ってしまった手前、合わす顔が無いというヤツです。」 スズ太は両羽を合わせて頬に当てるとニコッと笑ってみせた。 皆納得した様子で、「あぁ」とポカンと口を開け立ち尽くす。 「まぁ、良いじゃないですか。狸と狐の争いも無くなり、大量の食パンにもありつけた訳ですし。今夜も宴といきましょう。」 更にスズ太は、あいも変わらぬ表情で言った。 ※ ※ ※ ※ ※ 後日。 今宵も静かな神社の境内に雀たちは集まる。 しかしそこにスズ太の姿は居ない。 「狸と狐の争いに一石を投じ、その二匹を納得させ結果、鳥が得を得る。」 「そうだ。この話しを後世に伝えていこう。」 「それが良い。」 「そうだ。そうだ。」 「タイトルは何が良いだろう。」 「【雀の知恵くらべ】なんてどうだろう?」 「んーー。」 「もっと内容に沿ったものが良いよなぁ。」 「あっ。略して【一石二鳥】なんてどうだろう。」 「なんだそれ。変な名前っ。」 「そもそも、とんだだったよな。」 「あははは。」 今宵の神社も騒がしい。 雀たちの笑い声が毎夜響き渡る。 まるで祝うように、無くなっていた神社のシンボルである、雀の置物が元に戻されていた。 一羽の雀が言う。 「そう言えば、スズ太なんて名前の雀。この神社に居たっけか?」
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