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その瞬間、世界が大きく変わる予感がした。
ヴァイオリンを習っているとはいえ、全く興味がないまま連れてこられた他のヴァイオリン教室の発表会。ぼんやりと演奏を聞き流していた小学四年生の大和田春の耳に、今しがたステージで始まった演奏が流れ込んでくる。
洋服の裾を弄っていた指先が止まり、俯いていた頭を思わず持ち上げた。
ステージ上にはひとりの少女。
大きなヴァイオリンを大事そうに包み込み、口角を緩ませながら一生懸命に右手で弓を動かしている。紡がれる音はどれも瑞々しく、明るい響きを纏って春の席にまで強かに届いている。
音が、奏でてもらえた奇跡を喜んでいるかのように弾む。会場に彼女の世界が作られていく。
なんだ、この感じ。
心を突き動かされ、受付でもらったプログラムをやっと開いた春。曲名から辿れば、あっという間に彼女の名前と学年を知ることができた。
「貫井涼香、ちゃん」
そこに書かれている名前を思わず口にする。自分とひとつしか変わらない小学三年生の小さな女の子が今、ステージ上で音と戯れている。心から音楽を慕い、同じテンポで呼吸をしている。春はその光景をただ見守る。
どうしたらこんなに幸せそうに弾けるんだろう。どうしたら俺にもこんな音楽を生み出せるんだろう。
春の瞳には、喜びを噛み締めるように弾き続ける涼香だけが映る。眩しい、あまりにも。
彼女の演奏が終わったその瞬間、春には自分の世界が大きく変わる予感がした。
そしてその予感は、間違いではなかった。
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